「シェリア」
名を呼んだその声に、シェリアは小さく肩を揺らしてから振り向いた。
「ど、どうかしたの、アスベル?」
「買い出しに行くんだろ? 俺も行くよ」
あっと言う間に追いついた青年――アスベルの申し出にシェリアは慌てて首を振った。
「いいわよ、あまり買う物も少ないから、散歩も兼ねてるくらいだもの」
「だったら俺も散歩に付き合う。……駄目、か?」
眉を下げて問い掛けるアスベルに、シェリアは小さく笑い出す。
「シェリア?」
「昔と逆ね。小さい頃なら、有無を言わさずに連れて行くか、こっちの言うことも聞かずに行ってしまうか、どちらかだったのに」
強引なほどにいつも前を進んでいた幼馴染。
そう、こちらの言うことも聞かずに、一人決意してラントを飛び出してしまった少年。
「それは……」
口篭るアスベルはきっと、ついこの間にあったことを思い出しているのだろう。シェリアが七年の間に溜め込んでいた想いを爆発させた、あの時のことを。
わだかまりが完全に融けて消えたわけでは無いが、言いたいことを言い尽くしたシェリアは今それなりにスッキリとしている。だから今の言葉は嫌味では無く、ただ純粋にそう思ったからこそのものだったのだが、どうも青年にはそう取られてしまったようだ。
少しの意趣返しを込めて、止めていた足を再び進めだすシェリア。
数歩進んだ所で足を止めて振り返った彼女は、足を止めたままどうしようかと情け無い顔で此方を見ている青年を見て、腰に手を当てて口を開いた。
「散歩に付き合ってくれるんじゃないの?」
「え?」
「私は良いのよ、一人でも」
そう言うと、アスベルは慌てて駆け寄って来て、置いていかれないようにと思ったのだろうかシェリアの手を握る。
「ちょ、アスベル!?」
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ、って。……もう、しんっじらんない」
頬を染めてぷいと顔を背けたシェリアに、青年は不思議そうに小首を傾げてから今度は彼が彼女の手を引くようにして歩き出した。
「ほら、行くぞシェリア」
「…………やっぱり、変わって無いかも」
結局の所、彼が彼だからこそ。
そう思う自分も人の事を言えないくらい変わっていないのだろう、シェリアは己の手を握り一歩先を歩く青年の背を見つめながら、そんな事を思っていた。