いつの間にか、彼女は兄を見つめるようになっていた。
それまで向けられる視線は等分だったのに、気づいた時には兄に向けられる事が多くなっていて。
子供ながらに、彼女は兄が好きなのだと分かってしまった。
彼女のことは幼なじみとして慕っていたから、いつか兄が気づいて想いが届いたら良いと思い、子供ながらに鈍感な兄にさりげなく色々言ったものだが、あいにくと兄の鈍感さは国宝級で。
紆余曲折あり七年後に再会し、行動を共にしてから二人の関係が全く変わって居ないことを知った時は、呆れた反面、どこか少し安堵したこともある。
変わらないものが、あったのだ、と。
(今となってみれば、少しくらいは変化があった方が良かったのでは無いかと思いますが……)
だからこそ、全てが終わった後にシェリアが救護使節としてラントを発つと聞いた時は、良いきっかけになるのでは、とすら思ったものだった。
「ヒューバート?」
「……ああ、失礼しました」
「どこか具合でも悪いの? ……心配だわ。いつも頑張り過ぎてしまうんだから」
頬に手を当てて、困ったように言う彼女に、ぼくは苦笑する。
「親身になれるのはシェリアの美点だと思いますが、これからは人の心配と同じくらい自分のことも考えて下さい。ぼくはストラタへ、パスカルさんと教官はフェンデルへ帰り、兄さんとソフィはラントに残ります。だがあなたは一人で旅立つ」
「確かにバロニアまでは一人だけれど、そこから先は王国で組織された使節団と合流するのよ? 道中は亀車での移動が多いのだし」
「けれど、騎士が同行する事はない。下手をすれば、戦う力があるのはあなた一人でしょう。……何か起きた後では遅いのですから」
「ヒューバート……」
「ぼくたちは勿論、兄さんも心配します」
そしてきっと後悔するのだろう、やはりあの時に止めた方が良かったのだと。兄は、そういう人間だ。
「アスベルは……、私なら大丈夫だって、そう言うわよ」
苦笑したような、どこか痛みを堪えるようなその返答に思わず溜息が零れる。
「なによ、溜息なんて」
「いいえ、別に」
兄は国宝級だが、シェリアも兄に関してはかなりの鈍感かもしれない。
いつになったら、ぼくは彼女を「義姉」と呼べるようになるのだろうか。