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63.フラッシュバック

【本編第二部/IFの世界「endless world」設定/掌編】


※この掌編はIFの世界の「endless world」設定が前提となっています。関連三話と違い、キャラクターの死などには触れておりませんが、「endless world」を読まれていないと意味が分からない部分もあります。ご了承の上、ご覧ください。


 ――これ以上……誰かを傷つける前に……。
 お願い、わたしを。
 ――お願い……。
 わたしを、どうか。
 ――殺して。

 ハッとして、瞳を見開いた彼女は早鐘のように鳴り響く胸を抑えながら、ゆっくりと身を起こした。
 途端、つ、と頬を伝い落ちる涙。
 深呼吸を繰り返す。
 ようやく落ち着いた頃、ゆっくりと周囲を見回して、此処がザーフィアス城内の自分の部屋ということを確認した彼女は、無意識の内に緊張させていた体から力を抜いた。
「……今の、は」
 夢なのだろうか。
 軽く頭を振って、違うと少女は思う。
 夢よりも、フラッシュバックと呼んだ方が相応しい記憶の揺り返し。
 あまりにも現実的で、それにまだ、思いが残っていそうなくらいで。
「あ……」
 それなのに、夢なのだと「何か」が言うように、その記憶は手の平から砂が零れ落ちていくように薄れていってしまう。
 これでは駄目だ。せめて一欠けら、それだけでも零しはしないとでも言うように、夢に見た情景で一際印象に残った場面を脳裏に焼き付ける。
 黒髪の青年が何かを訴えるように声を上げ、その手にあるものを彼女に見せた。
 それは――。
「駄目、です。駄目、なのに……」
 零れ落ち、そして、消える。
 焼き付けた場面すら薄らいで……。
「……――」
 知っていたはずの名は、声にして紡がれずに吐息となって消えた。

 ――それは、おわらないせかいのはじまりの、すこしまえのこと。


*前回の同設定掌編「38.デジャヴ」がユーリ視点のものだったので、今回はエステルで。旅の始まる前というところでしょうか。

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