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5.サクラ

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ22歳・エステル19歳/掌編】


 例年よりも開花が遅れた為か、いつもなら入学式シーズンには葉桜となっていることが殆どな桜はちょうど良く満開となっていた。
 店のショーケースに並ぶスイーツの中にも、この季節限定ということで一画をサクラ色が占めている。オープンしたてということで数は少なかったが、既にこの店の味を知っている者は喜んで注文していくのだ。
「大学も満開ですよ。行くだけでお花見気分です」
 いつもの席で、店先に出ているジュディスの代わりにと、カフェカウンターに入っているオーナー手ずから淹れた紅茶を一口飲んだ後に笑顔と共に告げたエステル。
「ああ、正門から奥に続く桜並木はあそこの名物の一つだし」
「ユーリは先輩でした」
「とは言え、オレがあそこの桜を見たのはたった二年だけだし」
 肩を竦めた彼の言葉に、そうだったと彼女は頷いた。この青年はエステルの三つ上で、本来なら大学に在籍していてもおかしくは無い年齢なのだ。
「……エステル?」
 不意に言葉を失くしたように黙り込んだ様子に、訝しげな声が掛けられる。
「少しだけ、ユーリが大学生だったら一緒のキャンパスで過ごせたのかな、って、そんな風に思ってしまいました」
「……」
「そうじゃないから、今、こうして此処で向かい合って話している私達が居るっていうのは分かっているんです。でも、ほんの少しだけ」
「……まあ、もしそうだったとしても、あんたとは必ず知り合いそうな感じはするけどな」
「そう、です?」
「何てったって、自他共に認める『ほっとけない病』だし。多分、何かしらあって巻き込まれる気がする」
 に、と意地悪く笑って見せた青年に、エステルは僅かに頬を膨らませた。
「ユーリも人の事言えないです」
「あんたには敵わないって」
「そんなこと無いです」
「まあ置いといて。まあ、それも悪くは無いけど、オレは二年で済んで良かったって思いもあるぜ」
「……桜です?」
「そう。管理はされてるだろうが、たまにボトッと落ちてくるからな、毛虫が」
「っ……、そ、そんなこと言われたら桜の下を歩けないです」
「それに銀杏並木も綺麗さの裏には、銀杏の実の潰れた臭さがあったりするし?」
「ユーリ、意地悪ですっ」
 ぷい、と機嫌を損ねて顔を背けてしまった少女の前に、話している間にも止まらなかった青年の手が用意していたものが出された。ショーケースに並べられている桜のスイーツの一つが、オーナーパティシエの手で更にアレンジされた品だ。
 楽しみにしていたそれだけにいつまでも意地をはっていることも出来ず、思わず伸ばしたシルバーのフォークがほんのり桜色になったスポンジと生クリームをすくう。一口それを含んだ途端、優しく広がる桜独特の香りと甘みに、意識して引き締めていた顔が緩む。
「……ずるいです」
「そりゃ、何よりの褒め言葉だ」
 笑顔を見たい。
 そうして今此処でこの店のオーナーとして腕を奮う青年は、まだ若干の悔しさを滲ませた上目遣いの彼女に手を伸ばし、頬を一撫で。サッと桜色に染まった顔に、満足そうに一つ笑った。

*現代パラレルで二人が出会って二年目の春ということで。

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