【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ22歳・エステル19歳/掌編】
四月初旬、某日九時過ぎ。
エステルは朝一番に駅前のフラワーショップに行き、予約していた花籠を受け取ってある場所へと向かった。
住宅街にほど近い、二車線の道路に面したそこは、平日休日を問わずそれなりに人通りがある立地である。
小さな駐輪スペースも確保された二階建ての店舗――ウンディーネの伝手で見つけたそこが、今日から青年の『城』だ。
「えぇと……。こっち、です?」
携帯を開き、事前に青年から知らされていた住所と近くの電柱の番地とを見比べる。もう少し先らしい、とそのまま歩き続けるとすぐに目的の建物は見つかった。
白い壁、前面は大きくガラス窓が設けられており、店内のショーケースもカフェスペースも良く見える。木製のドアの前にはまだ開店前だからか「CLOSED」の札がかかっているが、それもあと一時間も経たないうちに「OPEN」へと変わることだろう。
そして、ドアの両脇には良く開店祝いに店の前に置かれるような、フラワースタンドがあった。
「ディーネと、フレン、からです……」
一人はこの店の主である青年の親代わりであり、この店の開店に当たって色々と手助けをしたというウンディーネ。もう一人は青年の幼馴染であり親友の、フレン。
ある意味当然と言えば当然だが、しかし二人が贈った花と自らの持つ花籠を見比べると、どうにも気が沈んでしまう。
「何やってんの?」
「ユーリ……!」
チリン、鳴ったのはドアに取り付けられたベルだろう。まだ「CLOSED」の札が掛かったそこを開いて顔を出したのは、正に開店準備で忙しいはずのユーリだった。
「開けておくから入ってきて良いって言ってたのに、入口前で立ち止まったまんまだし。何かあった?」
「えぇと…………、ディーネとフレンが贈った花を見て、ちょっと落ち込んでました」
これ、と差し出した花篭。
「わざわざ買ってきてくれたのか」
花篭に差し込まれたメッセージカードには「開店おめでとうございます」とエステルの筆跡で記されている。
「あの、小さいですけど……」
「大きさは問題じゃないって。あんたはこれに、ちゃんと祝いの気持ちを込めてくれたんだろ?」
「はい! ぎゅうぎゅうに!」
その様子にくつり、喉を鳴らして笑ったユーリは、扉を大きく開いてエステルを店内に招き入れると、改めて受け取った花篭をショーケースの一番目立つ場所に置いた。
「ありがとな」
「そ、そこで良いんです?」
「ここが良いの。多分後で必ず来るであろう奴らに見せびらかす」
ディーネとか、都合つけて来るとか言ってたフレンとか、カロル先生とか、リタとか、おっさんとか。
指折り数えていくユーリに小さく笑ったエステルは、すぅ、と甘い匂いの漂う店内の空気を吸い込んで口を開いた。
「改めて、今日はおめでとうございます、ユーリ」
「……ああ。ようこそ、パティスリー・ヴェスパーへ。後ほど一人目のお客様に特別にご用意致しましたスイーツをお披露目させて頂きます」
店主らしく丁寧に挨拶を返したユーリは、どこか照れくさそうに笑みながら、第一号の客人を一足先にカフェスペースへと案内するのだった。
*現代パラレルより、お店開店の日。