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10.生まれる前

【騎士姫パラレル/掌編】

「……ふぅ」
 ぱたりと本の背表紙を閉じて吐息を漏らしたエステルの視界を、すっと横切って目の前に置かれるティーカップ。ソーサーの上にあるシルバーのティースプーンには角砂糖が一つ乗せられている。
「ご休憩なされては如何でしょう、殿下」
「ふふ、有難う御座います。ではユーリも」
「お命じとあらば」
「……ユーリは意地悪です。命令ではなく、お願いです」
 しばらく無言の攻防が続いた後、青年は少しお待ちをと言い置いて部屋の扉へと向かった。静かに開き、扉の外に立つ衛兵に二、三言何かを申し付けてから、再び扉を閉じて戻ってきた。
「半時ほど人払いをさせました。結界を」
「分かりました」
 テーブルの上に置かれたそれに手を伸ばした少女は、軽く力を込めて鍵となる一言を口にした。途端、部屋全体が見えない「場」によって囲われる。
「お疲れさん」
「リタのくれた結界石があってのことです。これのお陰でユーリとも『ちゃんと』お話出来るようになりましたから、これくらいお安い御用です」
 にっこりと笑顔で言った彼女に、普段はその忠実な騎士である青年は苦笑する。
「言ったろ、あれは仕方ないんだって」
「分かっていますよ、それも。でも、やっぱり少し寂しかったです」
 皇族の姫とその騎士。であるからこそ、このように気安く言葉を交わすことなど出来ずにいた。それが変わったのは、とある視察で出会った天才魔導士と呼ばれるリタの発明のお陰で、以来こうしてお茶の時間には私的な時間にも外せなかった立場の仮面を脱いで会話が出来るようになっていた。
 青年は苦笑し、それから向かいの席に腰を下ろしてワゴンから予備のカップを取り上げた。手ずから紅茶を注ぎながら、そう言えばと一言。
「朝から何を熱心に読んでたんだ?」
「これです?」
 テーブルの上の閉じられた本を示した少女に頷き、青年はシュガーポットへと手を伸ばした。
「神話の本です。色々とお話があったんですけど……、ユーリは前世って信じます?」
「前世?」
「魂というものは、人としての生を終えた後に肉体から解き放たれ、そして時を置いて再び新しい肉体に宿り新たな生を得る。輪廻転生という考えです」
「つまり生まれる前のこと?」
「そうですね、そう考えてもらって良いと思います」
「そうだな……。オレはオレだし、今エステルが言った考えが本当だとしても憶えてないんじゃ何とも言えないし。まあ、そっちはそっちで『生きて』たんだろ、きっと」
 二杯ほど砂糖を入れて一口、そしてカップを置いてさらに一杯追加してもう一口。納得したのか二口ほどカップを傾けてから満足げにソーサーの上に戻した青年の言葉に、エステルもカップを傾けてから言った。
「わたしは、もし生まれる前に別のわたしが居たとして、そちらでもユーリと知り合ったのでしょうか、そう思いました。縁のある人は、前世でも何かしら絆があった人なのだと書いてありましたから」
「へぇ」
「そちらで知り合いだったら、最初からこんな風にお話出来たのかな、って」
「あるかもわからない『前』を羨んだって仕方ないだろ。オレもお前も今を生きてきて、だからこうやって向かい合ってる今があるんだし。それともあんたはオレが騎士じゃない方が良かった?」
「い、いいえっ! ユーリ以外の方がわたしの騎士なんて、考えられません!」
 思わず声を上げた彼女に、青年は一つ瞳を瞬いて口元を持ち上げる。
「それは恐悦至極」
「……ユーリ」
「オレも、あんた以外の騎士になるなんて考えられないからな」
「もう……、やっぱりユーリは意地悪、です」
 呟いた彼女の頬が淡く染まり、意地悪と評された彼女の騎士は更に笑みを深めた。



*捏造騎士×姫設定でお茶の様子。

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