【本編終盤/ヘリオード/微ユリエス/掌編】
最終決戦に向けて戦力強化を目的にバウルの力を借りて世界を巡っていた一行は、新興都市ヘリオードを目前に大嵐に見舞われ、強行突破は危険ということで徒歩でヘリオードへ向かい、滞在して天候の回復を待つこととなった。
星喰みの一件以来、旅に出る者も減ったとは言え、やはりこの天候で予定外の滞在を余儀なくされた者も多かったのだろう、宿はほぼ満室となっている。それでも、ワンフロアぶち抜きのランクの高い部屋は空いており、そちらの部屋を手配することに。
少々高い出費ではあるが、旅を始めた頃と違い資金にも余裕がある。それに思わぬこととは言え、久し振りの丸一日の休養なのだ、ならばゆっくり出来るようにこれくらいは良いだろう。
部屋に荷物を置いた後は各自の時間となった。
カロルとジュディスはこれまでに手に入れた素材を持って一階のショップで合成を。リタはレイヴンを荷物持ちに、やはり一階のショップへ買出しに。ユーリは男性陣に与えられた部屋で武器の手入れ、ラピードはその傍らで休んでいるはずだ。
エステルは紙面から視線を上げると、その顔にかけていた眼鏡を取って、瞳を瞬きぐるりと部屋を見回した。
「……変えなきゃ、でしょうか」
一人呟いたはずの言葉に返答があったのはその時だ。
「何か変えるの?」
「あ、ユーリ」
寝室に当たる部屋を出て、女性陣の使う部屋の間にあるラウンジに出て来た青年は、テーブルの一角で読書をしているエステルに問い掛けた。
「その、レンズを変えなくてはいけないと思って」
これです、と一度外した眼鏡をかけて見せたエステルに、ユーリは珍しいものを見たような表情になった。
「あんた、眼鏡かけるほどだった?」
「いえ、ほんの少し近視で日常生活に支障がある程では無かったんですが、文字の小さな書物を読む時はかけるようにしているんです」
「へえ……、それを変えないと、ってことは……。何だ、悪くなってんじゃねぇか」
心なしか眉を寄せた青年の言葉に、エステルは再び眼鏡を取って首を振る。
「元々度の軽いものでしたし、ほんの少しだけでちゃんと見えますから」
「ほんとに?」
歩み寄ってきたユーリは、エステルの傍で足を止め、背を屈めた。
近づいてきた秀麗な顔。頭を下げることによって肩口から滑り落ちた髪の一房。距離にして拳二つ分程だろうか、そこまで顔を近づけたユーリは尋ねる。
「見える?」
「え、あ、み、見えます」
「ふぅん」
「あ、あの……、ユーリ」
「何?」
「ち、近い、ですっ」
「大した距離じゃないだろ」
「そ、そんなことないですっ」
「なら、これより近くないと見えなくならないよう、少しは夜の読書を控えるんだな。見えないと、何するか分かんないし」
言いながら背を伸ばしてエステルから離れた青年に、少女は頬が熱くなるのを感じながら彼を見上げた。
*ちょっぴりエローウェル氏。エステルの近眼は捏造です。