【ED2年後/原作ベース/下町の少年とユーリ/掌編】
「母ちゃん、オレ、帝都の外に出てみたいんだ!」
「何言ってんだい! そんな冗談言ってる暇があるんなら外で洗濯物干しておいで!」
大量の洗濯物が入った籠を押し付けられ、追い出されるように勝手口から外へ出された少年は、唇を噛んで俯いた。
冗談ではない。ずっとずっと考えていたのだ。いつかザーフィアスを出て、世界を見るのだと。かつて少年の家である宿の二階に暮らしていて、今はハルルに住む世界を飛び回る青年とその仲間達のように。
それでも染み付いた癖は少年の体を動かし、籠を手に物干し台のある方へと向かわせる。
一枚一枚、シワを伸ばすようにはたきながら、少し背伸びをして物干しに掛けていく。そんな作業を繰り返し、ようやく山盛りのそれが籠の半分まで減ったその時、干されたシーツに人影が映り込んだ。
「手伝いか、テッド」
「っ、ユーリ!!」
良く知ったその声に、慌ててシーツの向こう側に回り込めば、思った通りの人物が笑みながら立っていた。この前会ったのはもう半年前になる。少年――テッドを見つけたユーリは心なしか感心したように手を伸ばして頭をぽんと叩く。
「へぇ、また少し伸びたな」
「へへ。そりゃ育ち盛りだもん。それにしても久し振りだね、何か用事があって帰ってきたの?」
「ああ。帝都からハルルに移り住んだ夫婦から、娘夫婦に届け物をってな。ギルドの仕事で発つ予定だったし、丁度良いから引き受けて来たってわけ」
他の奴らはついでに市民街で物資の補給中だ、そう言った青年は、落ちそうになっていた洗濯物をしっかりと掛けなおした。
「あ、有難う」
「手伝う?」
「ううん、良いよ。オレが任された仕事だし。ところでユーリはまだ居るの?」
「ああ。待ち合わせは下町の出口だからな」
そっか、とテッドは頷いてからまた一つ洗濯物をはたく。
「あのさ、ユーリ」
「うん?」
「世界を見てみたい、って言ったら……冗談だと思う?」
少年の言葉に、ユーリは干されたシーツを回り込んでテッドを見下ろした。しばらくじっと見つめ、そして口元を持ち上げて笑う。
「いや」
「勿論、今すぐに飛び出せる力があるなんて思ってないよ。でも、これからどうするか決める前に見てみたかった」
下町の子供は将来を決めるのが早い。親が商売をしていれば殆どの子供がそれを継ぐために、幼い頃から手伝いという形で仕事を学んでいく。
「なら、見てみる?」
「…………え?」
「ハルルの依頼人に報告する為に一度戻る。で、それから改めてオルニオンへ向かうんだが、どうせ帝都の傍を通るし、見せられるのは帝都とハルルの往復だけだけど」
「本当!?」
「勿論、女将さんの了承を貰うことが前提な」
「うん!」
テッドは勢い良く頷いて、それでも仕事を放り出すことはせずに手際よく残りの洗濯物を干し終えてから宿に駆け込んで行った。
そしてユーリの口ぞえもあって、バウルに運ばれるフィエルティア号からだけではあったが、初めて帝都以外の「世界」を目にすることが出来た少年。彼はハルルから帝都に戻ってきた時、とぴっきりの笑顔でこう言って、凛々の明星一行を見送ったのだった。
「楽しかったよ!!!」
*書き出したら際限なく長くなりそうな予感がし出したので、後半ぶった切りな掌編。