【ED後/原作ベース/ジュディス寄り/掌編】
バウルと共に世界を漂うクリティアの街から飛び出してからというもの、彼女の名前を呼ぶのは一部の存在だけだった。
ヒトやクリティアとはほんの少しの関わりだけで、名前で呼ばれるなど珍しいくらいで。
それが変わったのはつい一年前。
「あ、おはようジュディス!」
「おはようカロル」
「良い天気だね。これなら砂嵐に遭わずにマンタイクへ行けそう」
頭上に広がる青い空を見上げて言った少年に、ジュディスはそうねと頷いて同じように空を見上げた。ふ、と入ってくる声ならぬ声に気付き、瞼を伏せた彼女は、小さく笑った。
「ジュディス?」
「ふふ、バウルも同じことを言っているわ」
「そっか。今日も頼むね、って伝えてもらって良い?」
「ええ、勿論」
ナギーグで首領の言葉を伝えると、再び声ならぬ声で返ってくる力強い言葉。
「ジュディスちゃーん、おっはよ~!」
「ばか。どう見てもジュディスはバウルと交信中でしょうが、邪魔すんじゃないわよ、おっさん」
「おはよう、レイヴン、リタ。……朝から元気だね」
ばこっ、と言う音と共に魔導書ではたかれた男は痛みに頭を抱えてしゃがみ込んでいて、傍では自業自得と言うように腰に手を当てて見下ろしている少女が居る。カロルが若干言葉に迷いながら声を掛けると、聞こえてはいたのだろう、その光景の原因となった女性が瞳を開いて微笑み掛けた。
「おはよう、リタ、おじさま。朝から仲が良いわね、少し妬けちゃうわ」
「ばっ、な、何言ってんのよ……!」
「えぇっ!? ジュディスちゃん、妬いてくれたの!?」
「ジュディス……」
火に油を注ぐような言葉に、少年は疲れた顔でジュディスの名を紡ぐが彼女は微笑みを崩さぬまま、新たに勃発した少女と男のやり取りを見ている。
「朝から騒がしいけど、何かあったの?」
「少し前まで特に何も無かったと思うんですけど……」
響いた声にカロルが天の助けとでも言うようにほっとした顔となり、彼らに声を掛けた。
「ジュディスの何気ない一言がね……」
「あら、心外だわ首領。私は正直に答えただけなのに」
「まあ、状況は想像出来た。おはようさん、ジュディ」
「喧嘩するほど仲が良いと言いますから。おはようございます、ジュディス」
「ええ。おはよう、ユーリ、エステル」
すると少女の言葉が聞こえたのか、リタが抗議するように顔を向ける。
「断じて違うから!」
「そうです?」
「そうなの!」
「ほれ、じゃれあってないで出発するぞ。リステル」
カロルを促して歩き出した青年が、揶揄するように肩越しに振り向き少女達に呼びかければ、エステルもリタも不満そうな表情になる。
「エステル、ですよユーリ」
「あんたいつまでそのネタ引っ張るのよ」
「レイヴン、船に氷嚢があるからそれで冷やしなよ、そのたんこぶ」
「そうするわ~。うう、リタっちったら容赦無いんだから」
その様子を見ていたジュディスは、届いた声無き声の伝えた言葉に瞼を伏せ、それから口元を淡く綻ばせた。同意するように返せば、遠くから実際に聞こえてくる「彼」の鳴き声。
「ジュディスちゃーん、早く行きましょ、俺様リタっちが作成したたんこぶが痛いのよね」
「あれはあんたの自業自得だっての! まあいいわ、行くわよジュディス」
「バウルも到着したみたいだし、行こうよジュディス」
「ジュディス、ところで今、バウルと交信してました?」
「出発に関することなら遠慮なく言えよ、ジュディ」
彼等の言葉と呼びかけに、彼女は歩き出しながら答えた。
「大丈夫、問題ないわ。行きましょう、皆」
声を掛け、名前を呼ばれ、そんな風に過ごす当たり前の日々。ジュディスは今なら、エステルが言っていた名前が「宝物」という言葉が良く分かる。
「ジュディス、行こう!」
「ええ」
光の中で「私の名前」を呼んでくれる仲間達が、何よりの宝なのだと。心の中で思いながら、彼女は仲間達の待つ元へと歩みを進めた。
*ジュディス視点でパーティメンバーとの関係、みたいな?