【ED後/下町の下宿にて/ユリエス/掌編】
時は深更も過ぎた頃。日中は常に人のざわめきに溢れている帝都も、今は夜の闇の中、静けさが横たわるばかり。
だからこそ、余計に耳につくのだ。図らずも数日間の期間限定で同居人となった少女の寝息が。
(ラピード、恨むぜ……)
朝食を摂ったきり部屋を空けていた青毛の相棒は、夕食の時間になっても戻らず、狭い部屋には真実二人しか居ない。彼が戻らないことはままあることとは言え、今日ばかりは八つ当たりめいた愚痴も零したくなる。
青年は小さく吐息を漏らし、そのまま天を仰いだ。
せめて月も無い夜ならば、例え星が眩くとも部屋は闇に塗り潰されるだろうに、これもまた図らずも満月の夜なのである。お陰様で窓から差し込む月明かりに、照明を消した部屋も仄かに明るく、そして良く見えるのだ、安らかに眠る彼女の寝顔が。
旅の間に何度と無く見たことがあるはずだった。しかし、その時と今では、抱く思いが違う。
大人になった、と青年は思った。
何も知らなかったお姫様は、外に出て、世界を知り、自分を知り、理想の未来しか見ていなかった目を、自分で決めて自分で選び取る未来へと向けるようになった。
(眠れない……)
一つ、溜息を漏らす。
寝ぼけて己の意にそぐわないことをやらかす可能性がゼロでは無い限り、悠々と眠れるはずなかった。
「眠れるわけ、ねぇっての」
呟いた青年の言葉は、闇に溶けるように響いて消えた。
*今更ながら「7.事情」のなんちゃって同居生活の序章のその夜。続いちゃいました。