※これは「endless world」の設定を引き継いでいる話であり、今回はユーリ視点で「彼が彼女を手に掛ける」パターンです。ユーリとエステルの死にネタともなっています。苦手な方は窓を閉じてください。
強すぎる力は身を滅ぼす。
力を求める者に対して、戒めとされるその言葉に正に当てはまるのが今のエステルだ。
「う、あ……っ!」
暗示による意識の抑制とその解放。
元々、その外見からは想像するのも難しい剣の使い手でもあり、そして満月の子という特殊な能力故の強力な魔術の使い手でもある。
接近すれば鋭い切っ先が襲い掛かり、距離を取れば瞬く間に紡がれた光の魔術が放たれる。
エステルの身体のことなんざまるで考えていない、人が無意識のうちにする力の抑制まで枷から解き放たれている今、一刻も早く止めなければならないのにそれが難しい。
「っ、ホーリィ……レインっ!!」
「っち!」
僅かの間にエアルは光の力へと変じ、周囲一帯に光弾が雨のように降り注ぐ。それは操られるあいつの敵と認識されているオレ達だけでなく、術者であるエステルをも打ちのめした。
光に貫かれた右肩は当たり所が悪かったのか、激しい痛みもその瞬間だけで、もはや動かすのもやっとの状態。
この場で動ける者は、もはやオレと……あいつだけ。
魔術を使わない俺でも視認出来るほどの濃いエアルは、生きた術式であるエステルの傷ついた体を無意識のうちの治癒術で癒し、しかしそれによって術者であるあいつの身体は中から傷つけられていく。
表面上は変わらなくとも、あいつの身体は過ぎた力を無理やり使わされてきたせいでボロボロだ。
(これまで、か……)
オレも、あいつも。
それならせめて、このまま操られ続けて力の暴走の末に世界を巻き込んで死ぬよりも……。
オレが、この手で。
「おっさん、そこの魔導少女は任せた。ジュディ、うちの首領を頼む。ラピード、後は任せた」
既に反論を聞いて答える余裕は無い。言い捨てるように口にして、手加減無しの一撃を放つ。
「蒼破刃!!」
「きゃあぁぁっ!」
盾で防ごうとしたものの、衝撃を受け止めきれずに盾は手放され、余波によって吹き飛ばされる身体。
受身を取って体勢を整えきる前に、防御を無視して突っ込むと、辛うじて切っ先を逸らされ、返した刃も防がれる。
合わせた刃がギリギリと金属の擦れる音を響かせる中、ふと力を抜く。それに乗じて圧してきた刃を、力任せに横へ薙いで弾いた。
「っあぁ!?」
痛みに顔を歪めながらもその手は止まらなかった。護身用の短剣を抜き放つと、呪文を紡ぎ始める唇。
その腕を捻り短剣を手放させながら、引き寄せて尚呪文を紡ぐことを止めない唇に、自分のそれを重ねて封じる。
重ねて、そして捻じ込んだ舌で彼女のそれを絡め取り、殆ど力の入らない右手を細い腰に巻きつけたまま、背中に回した左手の宙の戎典の切っ先を――突き立てた。
「――っ!?」
「――っ!!」
灼熱のような痛み。その衝撃の後にゆっくりと唇を離せば、つと細い銀の糸が現れてすぐ消える。
「……ごめん、なさい、ユーリ……」
「それはこっちの、セリフ。悪かった、な」
「どっちの、意味、です?」
「両方、だな。どっちも、無理やり、だ」
「いい、です。止める、ためでも、わたしは、嬉しかった……です」
光の戻った瞳はその言葉を真実だと知らしめていて、遠のく意識を無理やり繋ぎ止めながらもう一度、顔を伏せて。
こんな時になって、ようやく素直に気持ちを認められるなんて馬鹿だ。
「これは、オレが、したかったから」
「……ユーリ」
「あんたと会えて、良かったよ、エステル……」
「わたしも、です。もし、この世界が続いて、また、生まれたなら……、会いたい」
貫く剣の刃から流れ落ちていく生命。血溜まりの中、剣を持つ手を離し、左手できつくエステルの身体を抱き締める。
互いの鼓動が消え行く中、憶えているのは血溜まりに倒れ込んだこと、抱いたその身体が温かかったこと、そして――「今まで」のこと。
世界は終わらない。
全ては巻き戻る。時間も記憶も何もかも。
まるでそれが、この世界を終わらせない何かの傲慢な意思であるかのように、何回も、何回も。
エステルを人形のように扱い、オレ達を駒のように扱い、世界がリセット出来る玩具のように。
(冗談じゃ、ねぇ。何もかも、巻き戻して、たまるか……!)
この感情は「オレ」のものだが、この永遠の箱庭に終焉を迎え入れる「何か」となるなら、次の「オレ」に一欠片でも――。
消えていく命の全てを注ぎ込んだ宙の戎典が呼応して力を放つ。
そして世界は「巻き戻り」、再び「繰り返される」。
その度に、それでも消えない「何か」を残しながら。