「ユーリ、君は本当に……」
「悪ぃな、フレン。けどオレはもうここには居られねぇ。上が汚れてるだろうってのは想像してたが、あそこまで……!」
ダン、唇を噛み締めながら壁を殴りつけた親友の姿に、フレンは苦しそうに目を眇めた。
「お前と一緒にここを目指した気持ちも、きっかけも本物だった。けど、オレは、違う道を探す。そっちの道で、オレのやるべきことを探すことにするわ」
短く息を吐いてから、しかし悔いなど微塵も無いと言った表情で自分を見据えてきっぱりと口にした彼に、フレンはゆっくりと頷いた。
「僕は残る。この道で、必ず今よりも上に行って、今よりも良い場所にしてみせる」
「ああ。出来るさ、フレンなら」
「君のことだから寄り道するんだろうけど、なるべく短く済ませてくれ」
「さぁなぁ。こういうのは巡り合わせもあるだろ。ま、憶えとくさ」
フレンの出した拳に自分のそれを突き合わせながら皮肉気に言ったユーリは、荷物を持って背を向けた。
「じゃあな。たまには園にも帰って来いよ」
「ああ。ディーネ先生に宜しくと」
ひらりと手を振ってロッカー室を出て行った幼馴染を見送ると、フレンは握ったままの拳を見つめ、今一度自分の決意を固める。
「これが、僕の道だ」
既に寮の荷物は片付け、退寮の手続きも済んでいる。制服も手帳も階級章も返還した。
「取りあえず、堅苦しいのとおサラバ出来ただけでも上々だな」
庁舎から出ると、のど元のネクタイを緩め、首を回す。今着ているスーツも、これからしばらくは収納行きだろう。
残ったものは、入庁した時に撮った堅苦しいことこの上ない写真くらいだ。だが、それでも彼は一向に構わなかった。それ以外に得たものは、一般ではあまり必要のない知識と、憶えていても胸の悪くなる記憶ばかり。
「さて、と。久々のチビどもとの再会か。土産見繕ってかねぇと」
堅苦しい言葉づかいからも解放されて舌も良く回る。ユーリはそれから一度も振り返ることなく、最寄の駅への道を歩き始めた。