札幌 戸建 fx 比較 3.14のsweet tasting



「ほい、ホワイトデー」
 カタリ、とカウンターのいつもの席に着いたエステルの前に置かれた白いプレートの上には、綺麗な色に焼き上げられたパイが。
「パイです?」
「ああ。三月十四日だしな」
 言って笑ったユーリに、エステルは首を傾げる。
「わたしの記憶では、マシュマロですとか、キャンディがお返しとして一般的だったような気が……」
「まあそうだろうな。店の商品にも幾つか期間限定で増やしてるし」
「そうですよね?」
 季節と、それからイベント毎に期間限定で店頭に並ぶ商品は勿論見逃さない。時には店頭に並ぶ前に試作品として見ることも多いエステルは、今現在売り出されているホワイトデー用の商品を思い出し、やはりそうだと頷いた。
 桃の旬はまだ先のはずだし、そう言えばアップルパイ以外のパイは初めてかもしれない。一体どんな理由があって、と思いつつも目の前の美味しそうなパイの誘惑には勝てず、磨き上げられたシルバーのフォークを黄金色の生地の上に。
 いただきます、と口にしてからフォークを入れると、微かな抵抗と共に響くパリパリとした音。一口大に切り離して、中身の桃が零れ落ちないように掬い上げて口の中へ。
「どう? いつもフルーツ仕入れるとこが、良いのがあるって言ったからピーチパイにしてみたんだけど」
「〜……っ! 外はパイ生地がパリパリのサクサクで、中身は桃の甘さとシロップでしっとりとなった生地が絶妙で、凄く凄く美味しいですユーリ」
 そうして更にもう一口。幸せそうな顔で味わうエステルの姿に、ユーリは口元を持ち上げて少し冷めた彼女の紅茶のカップを取り上げ、新しい物と取り替える。
「でもユーリ、やっぱり分かりません」
「ん? ああ、何でパイなのかってこと」
「はい。桃の理由は聞きましたけど、どうしてパイなんです?」
「だから言ったろ、ホワイトデーだから、って」
 問いかけに意地悪そうに笑みながら自らの紅茶を用意出来たカップに注ぐユーリに、エステルはむぅと眉を寄せた。
「ユーリ、意地悪です」
「それがオレだし? エステルは良く分かってるでしょ、何てったってオレの奥さんだし」
「分かってますけど、もう、意地悪しないで教えてください」
 はいはい、とばかりに彼女の疑問に答えるべく彼は肩を竦め、言う。
「ホワイトデーの今日は三月十四日だ」
「はい」
「つまり数字で表せば3と1と4だろ?」
「はい、確かに」
「数字で月日を書く時は色々あるけど、多いのが斜線で、次が点での区切りだ。で、この場合は点で区切ったとする」
「はい。点で区切ると3.14です」
「だからそういうことだ」
「はい?」
「3.14と言や有名なのは円周率だろ。3.141592……ってな。何年か前にバカらしいにもほどがあるけど3にされたとかあったけど、最近元に戻って。それは置いておくとして、オレはそう習ったし、あんたも多分そのはずだ。良く出ただろ、円の面積を求める時とかに」
「はい。それで…………、あ」
 何かに気付いて言葉を切って、僅かに思案した後にエステルはすっきりとした顔で言った。
「分かりました! 円周率である3.14を表す『π』、だからパイなんです?」
「正解。オレもテレビか何かで見たんだっけな。で、面白いと思って」
「気付くとビックリです。有難う御座います、ユーリ」
「どういたしまして」
 と、ユーリは笑って答えつつカウンター越しにエステルへと手を伸ばし、指先で唇の端に触れた。何かを拭うと、そのまま舐める。
「ユ、ユーリ!?」
「桃のシロップがついてた。味見は事前にしてたが……、こっちのが美味い」
「気付いてたならそういうことしないで教えてください……」
 家じゃなくてお店なのに、とぼそりと続けたエステルに、ユーリは口元を持ち上げた。
「家ならこんな可愛らしい方法じゃないけど?」
「はい?」
「そうか、エステルはそっちの方が良かったってわけか。よし、分かった」
「え、ええと、あの、ユーリ……?」
「楽しみにしてろよ、エステル?」
 にっこりと非常に楽しそうに微笑した夫を見て、彼女は理由は分からないまでもようやく墓穴を掘ったことに気付き、反論できずに空笑いを返し、どんなことになるのかと悶々としつつ残りのパイを口に運ぶのだった。


3.14
sweet tasting
お返しするだけの日だったはずなんだが、いや、日頃の行いってやつだな。ごちそうさま。
起きている間は〜という当サイトの掟にしたがって更新。パラレル恒例の時節ネタです。ほんとはエステルが高校卒業の時のお話にする予定でしたが、とても短編じゃおさまらないということでこっちに。実はこっちも書きたかったネタなのですよ。パイのお話はテレビで見たかラジオで聞いたかどっちかですが、へぇ〜と感心してしまった覚えがあります。むしろ悩んだのは、パイの中身を何にするか。某ゲームの影響もあったりなかったり(笑)
[脱稿:09'3.13 掲載:09'3.14]


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