カットが掛かった後、モニターでチェック。問題ないことが分かり、監督からOKが出た。
少し時間が押したが、それでも今日はスムーズな一日だった。それをスタッフの誰もが理解していて、だからこそ通り過ぎるその度に口々に声を掛けていく。
その声に一言ずつ丁寧に返事をしていく黒髪の青年は、スタジオを出て控え室に向かう最中に小さく息を吐いた。
「終盤なんだから仕方ないんだろうが、毎回心臓に悪い展開だぜ」
展開上はやむを得ないのだろうが、それでもこの二回は遠くに見ただけで、仕事場で顔を合わせることも無い。どうしているのか、と考えつつ控え室のドアを開くと、そこに今考えていた人物が律儀に正座で座っていた。
「お疲れ様です、ユーリ」
「……おつかれさん。……あんた、いつの間に」
「今日の撮りが終わってからです。わたしの方はここ数回は余り出番も多くありませんし」
だろうな、と脚本の内容を思い出して頷いた青年――ユーリは、静かに控え室の扉を閉じて彼女に歩み寄る。隣では無く、なぜか後ろに座り込んだ彼の行動が不思議だったエステルは、小首を傾げるしかない。
「ユーリ?」
「いいから」
言いつつ、腕を伸ばして彼女を引き寄せた青年は、足の間に座らせた彼女を背中から抱きしめつつ、セミロングの揺れる肩に額を乗せた。
深い、深い吐息が響く。
その余りにも疲れた様子に、いつ誰が来るかもしれないとどうしようと思っていたエステルも苦笑するしかない。
「疲れてるんです?」
「そりゃもう。……ドラマの中の『オレ』の状況は知ってるだろ」
「はい。えぇと、今日はハルルから帝都へ向かう森の場面、でしたよね」
「そ。どうしてもチビっ子の予定が合わないから、一人での場面のみ先に撮った。まあ、監督のことだからまた一から取り直す可能性もあるけど。キツイぜ、正直」
話の中でも早くあんたに会いたい、と常には無く素直に気持ちを吐露するユーリ。エステルはくすくすと小さく声を立てて笑いながら、青年の胸に頭を預けて彼を見上げた。
「でも、その先ではドラマの間違いなく一番注目される場面です。それが終わるまで、気を引き締めないと」
「わーってるって。だから充電中」
「わたし電池です?」
「オレ専用のな」
くつりと笑って、腰に巻きつけた腕の力を少し強めた。