「そう言や、どんな修行してんだ?」
「はい?」
体に見合わぬ大剣をしっかりとした動作で振るっていたリティスは、共に素振りをしていたユーリに問いかけられて手を止めて首を傾げた。
そんな彼女は現在、聖騎士として日々鍛錬に励んでいる所だ。
「あ、それ俺も気になってた。ビショップに転職した時もさ、一日出掛けてたと思ったら翌日にはもうかなり術とか習得してるし」
「確かにルークの言う通りだな。剣士とかならまだしも、ビショップは後衛だろ?」
ナディのことがあってバンエルティア号からなかなか出られないルークと、それに付き合っていたガイも打ち合いを中断して言うと、ああとリティスは微笑し、彼等の疑問に答える。
「世界採取討伐ダンジョン巡りを」
アメールの洞窟から始め、次に粘菌の巣、サンゴの洞窟……と段階を踏んで採取や討伐をしながらダンジョンを巡るというもの。あらかじめその手の依頼をまとめて受け、チャットに時間指定で次々と各地に停泊するように頼んでおくのだ、と。
「さすがに最初は少し手間取りますが、装備は僧侶の時に使ったものを揃えて持って行き、都度変更していけばそれなりに楽になりましたし。浅い階層の敵ならワンドだけで対処出来るので、こう、払いながら」
ぶんっ、と今は大剣を持っているので両手ではあるのだが、その時の様子を再現するように振って見せた彼女に、一同声も無く沈黙。
「やはり後衛職はそれなりに術を習得していなければ、どなたかとパーティを組んだ時にご迷惑になりますから」
「……どうりで、時々術じゃなくて杖で敵追っ払ってたわけだ。手馴れた様子で」
「つーか、初めて聞いたけど、…………気をつけろよな、ほんと」
「そうだな。確かに一人の方が色々こなさなきゃならん分、慣れるのも早いと思う。だが一人ってことは、何かあった時にはそれまでってことだ」
ユーリ、ルーク、ガイのそれぞれの感想やら忠告を聞いた彼女は分かりましたと頷き、言った。
「では、次の機会にはアメールの洞窟の入口と最深部の三往復ほどで」
「あのな、それは分かってるとは言わねぇの。誰かと同行しろって」
「それではあまり修行になりません」
困ったように、まるで忠告するユーリ達が責めているように思わせるような表情になって言った彼女が続けた言葉に、彼らは今度こそ何も言えずに口を閉ざすこととなる。
「いかなる時にも対処出来るよう、いかなる状況にも対処出来るよう、多くの職を経験し、一人での動きを修練しないといけません。いざという時に、私一人ででも、多くの方を守れるように」
それが、私の存在証明なんです。
静かに、穏やかに、いつもと変わらないその口調で。
ある日、この船に降って来た記憶喪失の彼女は、この船に居る代わりにギルドで働き始めたのだと言う。此処が今の彼女にとっての全てで、此処に所属する者を守る力を手に入れることこそ彼女の正義なのだ。
自分の為であり、けれど多くの人の為であり。それがとても「らしい」と思うくらいには彼女を知っている彼らは、苦笑を返すしかなかった。
「……たまには付き合わせろよ。あんたにばっか依頼こなされちゃ、チャットからお目玉喰らうんだ」
「お目玉、ですか?」
「確かにチャットなら言うかもな。あ、リティスだったらジェイドも文句言わねぇだろうし、俺も連れてってくれよな。船の中で素振りばっかじゃ体が鈍る」
「それには同感かな。定期的に実線に触れてないと、いざという時にルークをしっかり守れない。それは困るし」
「そうですね。採取は実入りの良い物も多いですから。以前ダンジョン巡りをした時に、イリアから依頼が少なくて小遣いが減った、と言われたこともありますし」
修行としては難易度が下がりますが、皆も欲しい物があるでしょうし。そう納得して申し出を受け入れたリティス。ここでもやはり皆を優先させる彼女に、ユーリはぽんと頭に手を置く。
「まあ、これからってとこか」
「仕方ねぇじゃん、リティスなんだし」
「そうだな。リティスだもんな」
男性陣三人の酷く納得したような物言いに、ユーリの手を頭に乗せたまま、リティスは首を傾げるのだった。