「そういや、匿われるのは良いが、仕事をするとなると名前が必然的に出るな」
小手調べに、とリティスの提案でチャットから要請された粘菌の巣での小麦の採取中、集めた量を確認してからふとユーリが呟いた。その眉間は僅かにしかめられていて、エステリーゼは問題があるのだろうかと小首を傾げる。
「駄目なんです?」
「オレはともかく、あんたはな。エステリーゼって名前が広まればどこから追っ手がつくか分からねぇし」
視線を周囲に巡らせた青年は小麦をまた発見したのか、そちらへ歩み寄ってそれを刈り取った。
「それじゃあ……偽名を考えないとでしょうか」
「とは言え、あんま掛け離れてると咄嗟の時に反応出来ないんじゃないの? となると……エステリーゼ、エステリーゼ…………」
少女の名を呟きだしたユーリは、少しの間を置いて良しと頷く。
「エステル」
「エス、テル?」
「あんま掛け離れてないけど、エステリーゼとすぐに結び付けられる奴はそうそう出て来なさそうだろ。それに、あんたの名前が悪いって言ってるんじゃねぇんだが、短い方がオレは呼び易い」
「エス、テル……。エステル、エステル……」
瞼を落として繰り返し呟いた少女は、瞳を開いた後に青年を見つめて微笑んだ。
「じゃあ、もう一度やり直しです」
「やり直し?」
「初めまして、わたしはエステルです。宜しくお願いします、ユーリ」
にっこりと笑んで言った彼女に、青年は小さく笑って口を開く。
「こちらこそ、エステル」
「リティスさんにも後でもう一度、初めましてのやり直しです」
「その前にオレ達は依頼を達成しねぇと、だ。結構時間掛かってるし、もしかしたらあっちの方が早く済んでたりしてな」
「あと二束です? ユーリ、急ぎましょう! あ、見つけました!」
声を上げてぱたぱたと駆け出して行ったエステリーゼ改めエステルに、ユーリは苦笑しながらその背を追いかけた。
「オレは護衛なんだがな。ったく、あの姫さんは」
「ユーリ? こっちです!」
「あんま先走んなって、エステル!」
手を振る彼女に注意するように言って、彼は足早にエステルの待つ場所へと歩み寄る。
ちなみにユーリの予想は当たっていて、先にある程度のキラービーを討伐したリティスは彼らが後一束を探している最中に奥から戻ってきた。その際に「エステル」が彼女に初めましてをやり直したのは言うまでもない。