「これ、どうしたんです?」
「それが……、不思議なことに倉庫に入っていて」
定期的に倉庫の整理を手伝っているリティスが、見慣れぬ箱を見つけて開けてみたらこれが入っていたのだとか。
三色の菱形の形をした物が黒い独特の台の上の薄紙の上に乗っている。エステルはなんでしょう、と首を傾げる。
「それは菱餅です」
「きゃ、び、びっくりしました」
「お帰りなさい、すずちゃん。これ、知っているんですか?」
すずが菱餅と呼んだそれを差し出しながら尋ねたリティスに、少女は頷いた。
「はい。ひなまつりに飾るお菓子の一つです」
「ひなまつり?」
「ひなまつり……、ある地方に伝わる伝統的な行事。雛人形と呼ばれる物とそれに付随する道具を階段状の台に飾り、その家の女子の健やかな成長と幸福を願う。桃の花の咲く頃に行われることから、桃の節句とも言う、です」
書物で得ていた知識なのだろう、目を閉じてそのまま抜き出したように説明してみせたエステルに、リティスはなるほどと頷く。
「その通りです。ですが、どうして此処に?」
「パニール…………では無いでしょうね。それなら倉庫に入れたりはしないでしょうし」
「食べられるんです?」
菱餅を興味深そうに見つめながら言ったエステルに、リティスも同じように視線を向けた。
「……そう、ですね。見た所、カビなどもありませんし、食べ物、ですよね?」
「これは残念ですが模造品のようですから、食べることは出来ません」
「そうですか。では、どなたかが依頼の報酬などで頂いて、使い道が分からずに入れて置いたのかもしれませんね」
そう結論付けたリティスにエステルも同意するように頷いた所で、食堂の主――パニールが戻ってきた。
「あら、皆さんお揃いでどうなさったんです?」
「パニール、これはどなたが倉庫に入れたかご存知ですか」
「これ? ――ああ、リッドさんが依頼の報酬で頂いた帽子だそうですよ。ただ、兜で間に合っているからとこちらに預けられて」
「帽子……。それは意外な使い道です」
菱餅の正式な使い道を知っていたすずは、どこか困惑したように呟く。
「私達のように、何に使うか分からない方が偶然手に入れられて、それがリッドさんへの報酬となった……ということなのかもしれませんね」
リティスの感想にそうかもしれません、とすずが頷いた所で、パニールがエステルを見てにこやかに声を上げた。
「まあ、お似合いですよエステルさん」
「そうです? リティスも折角ですから試してみませんか?」
「エステルさん、それは本来、伝統的な行事で使用する道具なのですが」
「すずちゃん、何事もチャレンジです!」
「ちゃれんじ、…………そう、なのでしょうか」
はい、リティスもとエステルに差し出された彼女は、苦笑しながらもそれを受け取り――要望に応え、偶然食堂にやってきたルークとガイに目撃され、一方には不思議がられ、菱餅を知っていたのだろうもう一方には唖然とされた後に経緯を知って苦笑された、とか。