視力回復 配達 365 Themes―1.ほおづえついて



 窓際に腰掛けて立てた膝の上に肘をつき、頬杖をしたまま窓の外へと視線を向けた青年は、丁度良く雲の切れ間から差し込んだ太陽の光に目を眇めた。
 穏やかな帝都の午後。時折眼下の路地を走っていく子供達が青年に気付いて足を止めては手を振って声を掛けて行くのに律儀に声を返しつつ、久し振りの何も無い一日を謳歌する。
 込み上げてきた欠伸を噛み殺すこともせずにすると、ふと思った。こんな所を見たら育ちの良い彼の少女は行儀が悪いと言うだろうか、と。
 とは言え、荷物の整理も剣の手入れも午前のうちに済ませてしまったし、相棒はと言えば昼食を取った後にふらりと出て行ったまま戻ってこない。これから出掛けようにも、青年には出掛けられない理由があった。
「午後には仕事が終わりますから、って。何時になるんだか」
 もうすぐ帰る予定だ、とかつての旅の終わりに魔導少女が作った「響きの鐘」で連絡したのは二日前のこと。鐘に刻まれた古代の魔導文字は相手を思い浮かべながら音を鳴らせば、少量のエアルを取り入れてその人物が持つ同じ文字が刻まれた鐘に響きを伝える。特定の慣らし方に意味を決め、旅を終えた後も連絡手段として使われているユーリのそれに「待っています」という返事の音色が返ってきたのは連絡してすぐ後だ。
 そして昨日――時間的には今日となるのだろうか、夜中にひっそりと帰って来た青年は、帝都下町の下宿先の部屋のドアに挟み込まれたメモを見つけた。
 何時に来るか分からないとあっては、すれ違いも考えてここから動けない。
「…………オレも大概、か」
 眇めていた視界に久し振りに見る色が小さく映る。徐々に大きくなってきた姿。窓辺に腰掛ける青年が見えたのかその顔に満面の笑みを浮かべて手を振る様子に、青年は頬杖をついたまま呟き、口元を持ち上げて軽く手を振り返した。


365 Themes / 2.秘密
ED後のある一コマ。
[初出:09'4.16 再掲載:09'4.27]


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