「事情は分かりました。だから、皆と同じことさせてください」
にこりと笑ってからポカリと頭をはたかれて、思わず男は瞳を瞬いた。痛みからでは無い、全く頭に無かった展開だったからである。
右手ではたかれた場所を押さえると、途端に手を挙げた彼女は表情を変えた。
「強すぎました?」
不安そうな声音に、男は吹き出す。
吹き出して、そのまま声を上げて笑って、そうすると少女は困った顔を一転させて頬を小さく膨らませる。
「あー、悪い悪い。……しっかり効いた」
「……効いたんです?」
「おっさんには効果絶大」
「それなら良いです」
「嬢ちゃんはそれで良いわけ?」
本当にそれで良いのか、試すように尋ねた男。すると彼女はしっかりと一つ、頷いた。
「不義には罰を、です。それに……絶対に悪い人なんて、居ないんですよ。わたしが弱かったせいでもあるんです」
「俺は無理矢理浚った。それが命令であっても、実行したことには変わりない」
「確かにそうですけど、わたしはあの時……破ってしまいました、約束を。わたしが世界を滅ぼすというのなら、いっそのこと……って。それに、です。皆にいっぱい心配と迷惑かけてしまって、そのことはとても後悔してますけど、それでも今のわたしが在ることは後悔していませんから」
真っ直ぐに見つめて言った凛とした表情の少女。
正体を偽って共に旅をするようになってからというもの、助けたいという思いそれだけで突っ走ろうとする様や、力に翻弄されて揺れる様が印象に強く、次期皇帝候補の肩書きは一つの情報としてしかイコールで結びついていなかった。
だが、今ならイコールで結びつけても頷ける。もう一人よりも皇族としては遠縁とは言え、やはり彼女もその血に連なる者なのだと。
「おっさんは、十年ぶりに生き返ったから作法なんか忘れてるし、この格好じゃぱっとしないけど」
「レイヴン?」
不思議そうな少女に右手を差し出すと、握手だと思ったのか小首を傾げながらも右手を差し出す彼女。
男は手を握るのではなく、そのまま白いグローブがはめられた小さな手をすくい上げると、その甲に恭しく触れるか触れないかの口付けを落とした。
「その御心に心からの感謝と尊敬を、エステリーゼ殿下」
瞳をぱちぱちと瞬いて、それから彼女は少しだけ照れくさそうに微笑した。