「あら、ぐっすり」
「ほんとうです」
「しょせん、ガキんちょはガキんちょね」
寝台の上に大の字になって静かに眠る少年。
買出しから帰って来た女性陣三名は、扉を開けて目に入ったその光景にそれぞれの感想を漏らした。
二人は微笑ましそうに、そして一人は呆れたように。けれど呆れたような言葉はいつもよりも潜められていて、そこに少女なりの気遣いを感じた先の二名はその様子に笑みを深めた。
「カロル、頑張っていますから」
静かに少年の眠る寝台に歩み寄り、その寝顔を覗き込みながらのエステルの言葉に、リタがまあねと肩を竦める。
「それは否定しないけど、突っ走り気味でもあるんじゃないの」
「成長期だもの。自分でも走れば走るだけ成果が見えるからこそじゃないかしら」
ジュディスは言って、微笑を湛えたまま眠る少年にブランケットを掛けてやる。それから悪戯っぽい笑みを浮かべ、子供特有のふっくらとした頬を人差し指でつついた彼女。
「うぅん……、ユーリ……、ジュディス……ほどほど、に、してよ」
何の夢を見ているのだろうか、眉を寄せた少年の寝言にジュディスは瞳を瞬いた。
「私とユーリってことは、ギルドの依頼かしら? 夢の中までご苦労様ね、首領」
それに釣られ、エステルが反対側の頬を軽くつつくと、少年はどこか苦笑したように眉をハの字に。
「ラピード……、三回に一回くらいは……エステルに反応してあげようよ……」
その寝言に思わず笑ったのはジュディスとリタだった。日頃から何とかラピードを構おうとするエステルと、それをスルリと避けるラピードを見ているから余計に可笑しい。
「……わたし、夢の中でも心配されてるんですか……」
そしてリタが両頬を軽く摘む。さすがに起きるのでは無いかと思いきや、少年はその気配もなく寝言を漏らした。
「……レイヴン、濡れたり痺れたり黒コゲになったり、そこまでしてリタに構いたいの……?」
その言葉にリタは頬を赤らめ、思わず上げそうになった声を抑えてから吐き出すように呟く。
「これはガキんちょの夢、夢よ。夢なんだから」
「あら、でも意外と的を射ている意見だと思うわ」
「そうですね。だってリタ、レイヴンに話してる時、口では反対のこと言いながら嬉しそうです。レイヴンも口ではからかってるのに、目が優しいです」
「気付いていないのは本人達ばかり、ということかしら」
うふふ、と微笑しながら言ったジュディスに同意するようにエステルが頷いた。
「あー! もう、うるさいっ!」
羞恥に負けて声を上げた後、あ、と口を抑えるリタ。さすがに目を覚ましてしまったか、と思いきや少年は未だに夢の中だ。
思わず安堵の息を吐いた少女は、まあそれだけこいつも頑張ってるってことか、と初めて会った頃よりも色々な意味で強くなった少年のことを思う。
「リタ、しーっ、です」
「わ、分かってるわよ」
「戻ってきたけれど、起こすのは忍びないもの。買出しに行った人達でも迎えに行きましょうか」
「そうですね。それからゆっくり戻ってくれば、カロルも起きてる頃でしょうし」
「ま、夕食時よね。ガキんちょの腹時計は正確みたいだし、いいんじゃないの」
肩を竦めて先に扉へと向かったリタに、寝台の傍に立っていた二人も続こうとした時。
「みんな……」
「カロル、起きました?」
「……そうでもないようね。寝言だわ」
小さな声が響いた。
「お疲れ様。明日も、頑張ろうね……」
ふわりと微笑して、それから寝息が深いものへと変わった。それを聞いていた女性陣は微笑する。
「あなたもお疲れ様、首領」
ジュディスはそう言って、小さな、けれどとても大きい、頼もしき首領を思いやるように、ふっくらとした頬に唇を寄せた。