札幌 中古住宅 Kiss―唇の上なら愛情の


「あー……、その、だな。悪かった」
 珍しくも困った様子で言葉を濁す青年に、その目の前の少女はにっこりと微笑みながら小首を傾げた。
「何が、です?」
「……エステル、怒ってんの」
「何でそう思うんです?」
 不思議ですね、と微笑を崩さないままに質問を質問で返したエステルに、ユーリは思わず視線を彷徨わせる。
 一度目は下町の井戸のトラブルで、二度目はギルドの仕事で、そして今回の三度目はザーフィアスからハルルに向かう途中に出た「ほっとけない病」で。
 エステルは一度目は井戸が直ったことを自分のことのように喜び、二度目は遅くなったことを心配したものの何もなかったことを安堵した。
 申し訳なく思いつつ、エステルならとどこかで思っていたのは自分の驕りに他ならない。ユーリは内心で思い、頭を下げた。
「本当に悪かった」
「……それで、ユーリのほっとけない病で助けた方は、無事にヘリオードに着いたんです?」
「ああ。ちゃんと家族の所に送ってきた」
「そうですか」
 ふぅ、と溜息を吐いたエステルは、良かったですと小さく続ける。
「二度あることは三度ある、という格言もありますし、全く予想していなかったわけでもありません。でも、さすがに今回は十日以上も連絡が無かったんです」
 ぺち、と強くもなく弱くもない力で青年の頬が叩かれた。酷く痛いというわけではないものの、しかしじんわりと残る痛み。
「リタならきっとグーでいいのに、って言うんでしょうけど」
「……そんでも一向に構わねぇよ。明らかにオレのが悪いんだし」
「それじゃあ、次はそうしますね」
 もう次があるようなことを言うエステルに、ユーリは苦笑しつつ肩を竦めた。
「もし次があっても、そん時はちゃんと連絡する」
「約束です?」
「約束。……あんたを悲しませたいわけじゃないんだし」
 少女の手を取った青年は、その両の手に残る爪跡から、目の下に薄っすら見える隈から、遅れていた間の彼女の心労を改めて感じて、その数日の自分を罵りたくなった。もしこの少女の親友である魔導少女が知ったなら、拳で済めば良い方だろう。恐らくはその次に、魔術が飛んでくるはずである。
「それで、許してくれるか?」
「……どうしましょう」
 ふふ、と微笑しながら小首を傾げる彼女は、しかし顔を合わせた直後とは違う「いつもの」笑みを浮かべていて、ユーリは口元を持ち上げてその頬に手を添えた。目を細めて温もりを感じる少女に、青年は辛抱強く彼女の答えを待ち……。
「会えなかった分だけ、一緒に居てください」
 そうしてゆっくりと瞼を落としたエステルに、ユーリは背を屈めながら答える。
「いかようなりとも、仰せのままに」
 他の誰にも聞かせない声で言って、それから彼は自分以外の誰にも許されていない場所に、己のそれを重ねた。


唇の上なら愛情
心配かけといて何だが、会えない間辛かったんだ、って言ったらあんたは何て言うんだろうな
ほの甘なお話を目指してみました。ED後で、結婚を控えている二人というのがイメージで。ユーリがハルルに移るまで通い婚の如くなんですが、色々巻き込まれるのですよ。ちなみに某有名結婚情報誌のCMを見て、プロポーズとウェディングの間の、ってイメージが刷り込まれた影響かもしれません。
byフランツ・グリルバルツァー『接吻』より『キスの格言』
[脱稿:09'1.2 掲載:09'1.7]


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