今日という日の終わりが近づいている。
角灯の明かりを頼りに読書をしていた彼女は、光源の揺らぎに書物から意識を逸らし顔を上げた。
研究熱心な年下の友人が作った、少量のエアルを取り入れ、マナへと変換し、エネルギーとして使用した後にはエアルへと還るような仕組みのエアル循環式小型角灯。やっと納得出来る大きさまで小型化出来たから、とこれを贈ってくれたのは昨年の今日になる。
メンテナンスが必要になったらいつでも呼ぶこと、そうじゃなくても時々は時間を作って会いに来るけど。
照れ隠しに少し視線を逸らしながら言った友人に、嬉しくて抱き付きながら礼を言ったことを思い出し、彼女は小さく笑った。
手を伸ばして角灯にエアルを充填させるスイッチを押そうとしたが、明日の朝一番に皇帝との謁見の予定があることを思い出し、今日はもう休もうと手を戻して開いていた書物を静かに閉じる。
明かりが無くとも、窓から差し込む月光が薄暗く部屋を照らしている。椅子から立った彼女は、夜空を見上げながら髪を纏めていた髪飾りを外した。
ぱさり、揺れ落ちた髪が背中を緩く打つ。
別に何てことの無い、毎日就寝前に繰り返すことだというのに、今日ばかりはエステルを苛む行為にしかならない。満月よりも少し欠けた月が余計にその感情を助長する。
あの日、あの時、あの夜と同じ、十六夜の月。
その時は自室からではない場所で、一人では無く。
背中から包まれるように抱き締めた腕の中から、見上げていた。
嬉しくて、切なくて、幸せで、苦しくて。
正と負の感情が此れでもかとばかりに渦巻いていた、あの日。
三年前の、今日。
まだ――、否、もう三年が経つのだから、いつまでも引きずってばかりいられない。そのことは、今日の午前の謁見の時だけではない、三年前から嫌という程に自らに言い聞かせて来たことではないか。
皇統に列なる者として、いずれは訪れるはずだった義務を果たす時が来ただけ。寧ろ、普通ならば遅すぎる。本来なら既に果たしていてしかるべきなのだ。
三年の猶予があったのは、ひとえに事情を知る皇帝ヨーデル・アルギロス・ヒュラッセインの寛大な配慮に因る。