パジェロ買取 Offline「Opus.A」Sample



「Opus.A」
[新書判/FCオンデマンドカバー/44P/R18] 700円
※18歳未満の方には頒布出来ません。お求めの際には年齢確認が可能な
身分証明書をご提示頂きます。

【サンプル】
ancora」「Appassionato」「affettuoso
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ancora」より冒頭


「アスベル、お手紙」
「手紙? 俺個人に宛ててのか?」
「うん」
 ラント領主としての執務に勤しんでいたアスベルが、そろそろ休憩しようかと手を止めた時、丁度良く訪れたのはソフィ。戦いを終えた後にケリーの養女としてラント家の一員となった義妹だった。
 既にあれから二年が経ち、より表情や語彙が増えたソフィだったが、仲間たちに対して単語で話す癖は中々抜けないようだ。苦笑しながらも尋ねてみれば、珍しいと思いながら手紙を受け取る。
 アスベルに知人が少ないわけでは無いが、本格的に領主として執務を執るようになってからは「ラント領主」宛てに届くものが殆どで、個人に宛てられた手紙というものは少ないのだ。
 受け取った手紙の差出人を見てみれば、見覚えの無い名前が記されている。
 誰だろうと思いながらも、取り合えず封を開いて便箋を取り出した彼は、最初の数行に目を走らせて、ああ、と笑った。
「アスベル?」
「誰かと思ったけど……、ソフィ、ベラニックでやった劇の作家さんだよ」
「あ、『シェリ雪姫』?」
「ああ」
 頷いて更に先に目を通したアスベルは、しかし次第に笑みを固まらせていく。
 その変化を不思議に思って小首を傾げながら見ていたソフィは、義兄が便箋を元のように折りたたんで溜息を漏らした所で声を掛けた。
「どうしたの?」
「…………簡単に言うと、依頼の手紙だ」
「依頼? アスベルに?」
「正確には俺だけじゃなくて、皆に、だな。封筒では俺宛になってたけど、中身にはソフィの名前も書かれてた。皆にも同じような手紙を出した、らしい。シェリアだけは、丁度ベラニックを訪問していて直接依頼されたみたいだけど」
 はあ、と再び溜息を吐いた青年。ソフィは少し考えて、思いついた答えを口にする。
「もしかして、劇の再演をして欲しい、って言う依頼?」
「……ああ、その通りだ」
「わたしやりたい。……アスベルは嫌なの?」
「嫌というわけじゃ……。パスカルの発案した暖房のお陰とか、教官の取り組みでベラニックも大分環境が良くなってきているらしいけれど、娯楽は少ないというから皆に喜んでもらえるなら……。しかし」
 あれを、もう一度?
 二年前の――今回の依頼を受ければ初演ということになるのだろう――ことを思い出した彼は、その頃の自分も思い出して頭を抱えたくなった。



*続きは「Opus.A」で。





Appassionato」よりR18部分除いた冒頭


(駄目だ、休もう……)
 ズキズキと痛む米神を押さえながらペンを置いた彼は、やりかけの書類をひとまず検討中の書類の山の上に戻し、一度椅子の背もたれに体を預けた。
 途端に襲い来る眩暈にも似た眠気。このままだと椅子の上で眠りに落ちてしまう羽目になる。そうなって後悔するのは固まった体の痛みを感じることになる己だ。
 覚悟を決めて一つ息を吐いてから椅子を立ったアスベルは、くらりとして机の端に手をついた。体を支え、眠気を振り払おうと頭を軽く振る。
 突発的な用事やら何やらで、処理すべき案件の決済が遅れに遅れ、その挽回の為にここ数日は睡眠時間が通常の三分の一程度になっていた。それがこの頭痛の原因だ。
(出来れば、明日には間に合うように全部片付けてしまいたかったんだけどな……)
 一ヶ月前、救護使節としての活動を終えてラントへ帰還したシェリア。
 それよりも前――彼女が旅立ってから二年となった頃――に想いを通わせ、彼女が帰還したその後に、幾つかの偶然が重なった末に生まれた機会に身体を重ねた「恋人」は、これまでの活動の報告書をバロニアの使節団本部に提出する為、数日前から街を空けている。
 その彼女が戻ってくるのが、明日なのだ。
 忙しいのは仕方の無いことだと、まだ領主となって三年に満たないアスベルでも良く分かっている。
 領主とは、領地とその土地に生きる人々を守り育てていく、その判断を下す最終責任者だ。勿論、国政に係わる重要な案件については国王の判断と許可を仰ぐ必要も生じてくるが、多くの場合は領主にその裁量を委ねられている。
 どんな小さなことでも、どれだけ大きなことでも、何も無い日というものは無い。むしろ無いことの方が問題だ。
 青年の亡き父、アストン・ラントはそんなことを言っていた、とまだアスベルが領主として執務を行うようになってから日も浅い頃、フレデリックが何気なく教えてくれた。
 だからこそ休まる日など無い。
 しかし今は僅かな休息を取らなければ効率は下がる一方であるし、ミスを犯しかねない。
 ゆっくりとした足取りで執務室を出たアスベルは、目元を揉み解しながら階段の手すりへと手を掛けた。と、人の動く気配に気付いたのか奥から出てきたフレデリックが若き主の姿に気付いて声を掛ける。
「お疲れ様です、アスベル様」
「ああ、フレデリック。これから少し休むが、何かあったら遠慮なく知らせてくれ」
「畏まりました。――僭越ながら、お顔の色が悪う御座います。少しと言わず、どうか夕食までゆっくりされてはいかがですか」
「気持ちは嬉しいが、そうもいかない。ただ、さすがにこれ以上は効率が下がるばかりだから休むだけで……、二時間したら起こしてくれるか」
「アスベル様……」
 心配そうな声に、しかし青年は頼むと言い置いて階段を上り始める。その背に、仰る通りに、そう返事が投げかけられ、彼は僅かに苦笑しながら私室へと入った。
 扉を後ろ手に閉めると、上着を脱いでばさりと隣の寝台――幼少期にヒューバートが使っていた方だ――に投げ置き自分の寝台に腰を下ろす。のろのろと靴を脱ぐと、そのまま倒れこむように仰向けに寝転がるアスベル。
 二時間という制限を設けたとは言え、急な用事さえなければ休むべき時と決めた時間だ。
 睡眠不足で痛む米神のことも忘れ、ただ、手招きする睡魔の誘惑に乗って急速に夢の淵へと意識を沈めた。



*続きは「Opus.A」で。





affettuoso」より冒頭(※本書書き下ろし)


 パタン、扉が静かに閉じると同時に一つ溜息。そして遠くに聞こえる賑やかな雰囲気に、二人は顔を見合わせて、くすりと笑った。
「此処に居ても聞こえるな」
「本当に。パスカルと教官、あんまり飲み過ぎないと良いんだけれど……」
「リチャードも、ヒューバートも止めないで飲んでたからな……。まあ、ソフィとフレデリックが居ることだし、宿の迷惑にはならないだろう」
「貸し切りだもの。でも陛下は大丈夫なのかしら?」
 頬に指を当てて少々困惑気味に言った彼女――シェリアに、彼――アスベルは笑って答える。
「宿の周囲に騎士を配置しているらしいからな。今日くらいは僕の我儘を通させてもらう、って笑ってた」
 ラント領主アスベル・ラントと、シェリア・バーンズの結婚式は今朝早くから準備が開始され、昼過ぎに王都バロニアの聖堂で執り行われた。
 二人の結婚が決まった時に、一切のことは任せて欲しいと申し出てくれたリチャードの言葉に甘えた結果だ。
 今やウィンドルの外交上、諸国への玄関口を持つ重要な土地となったラント。その領主とは言え、二十一歳という若輩に当たるアスベルの式に、国王自らが準備に手を貸し、あまつさえ出席なんてと非難が無かったわけじゃない。
 ただ、本人の強い希望と、その意を充分に理解したグレルサイド領主であり宰相デールの支援によって、それらは現実の物となった。
 式には招待した者は勿論、話を聞いて駆けつけてくれたかつての知人と言った、多くの人々が参列した。
二人の家族であるケリー、ヒューバート、ソフィ、フレデリック。ラント領からは警備としても同行することとなったバリーを始め、二人の友人たちが。
ストラタからは、個人として出席するヒューバートの代わりに大統領からの親書を携えたレイモンが。
 フェンデルからは、共に旅をした仲間であるマリクとパスカルの二人と、フーリエとポアソンが。
 聖堂で誓いの式が執り行われた後、多くの人々が集った聖堂前広場に出た二人は、彼等が一斉に撒いた色取り取りの祝福の花びらに包まれたのだ。



*続きは「Opus.A」で。






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