【芸能界パラレル「Act!」設定/撮影所にて/短編】
※この話はMainの「Parallel world」にある芸能界パラレル「Act!」設定での掌編です。詳細はそちらの設定をご覧下さい。こんな特殊なパラレルでもオッケーという方は、折りたたみの中(携帯の方はこの下)をご覧下さいませ。
「あー……、こりゃしばらく待ちだな」
快晴の空から降り注ぐ日差しを遮りつつ、見上げて言った黒髪の青年に、同じように空を仰いだ男が同意した。
「そうね。あの監督さんならそう言うかもねぇ」
「あら、それなら日焼け止め、塗り直して来ようかしら。そろそろ汗で落ちて来そうだもの」
むき出しになった肌を撫でながら言った女性に、空を仰いでいた二人の男性の視線が向けられる。
「汗ねぇ……。そんな風には見えねぇけど」
「ジュディスちゃんはいっつも涼しげだしねぇ。でも塗り直すなら、おっさん喜んでお手伝いしちゃう」
両手を擦り合わせて一歩踏み出した男に、飛んできた何かが当たった。見事に男の後頭部を直撃したそれは、飲み口が二つついている冒険用の水筒。
「真っ昼間からいかがわしいのよ!」
両手を腰に当てて声を上げた少女に、彼女と共に歩んで来たエステルとカロルがそれぞれに苦笑している。
一方、ぶつけられた男――レイヴンは頭を抱えてうずくまり、涙目で振り向いた。
「ひ、酷いリタっち……。今のたんこぶものよ?」
「う……」
「たんこぶね。オレも経験あるけど、あれで被り物やるとキツいな。ヘルメットとかカツラとか。おっさん確か、後で別の撮りだよな、時代劇の」
「うう……」
レイヴンに次いで、黒髪の青年――ユーリが言うと、少女はバツが悪そうに視線を逸らす。
「不可抗力ならまだしも、それ以外で役者がケガすんな、させんな。仕事をしている以上、周囲への影響も考えろ。経験は浅くても、お前はプロとしてここに居るんだからな、リタ」
淡々と少女――リタを諭した青年に、彼女は俯きがちに頷いた。
「レイヴン……、ごめん、なさい」
「あー、いいのよ、分かってくれれば。リタっちの経験値はプラスになったっしょ?」
「……ん」
ひょいと立ち上がったレイヴンは、ぽん、と一つ少女の頭を叩く。
「今の青年の言葉は耳に痛かっただろうけど、ちゃんと言葉で言ってくれる人間ってこの業界じゃ珍しいんだから、そういう意味では恵まれてるのよ~、リタっちは」
「おじさまの言う通りね。私たちはある意味体が資本だもの。私も言われた時は色々痛かったけれど、今はとても大切な基本になっているわ」
フォローするように、やはりまだ役者としての経験はあまり長くない女性――ジュディスが言い添えれば、リタはまた一つ頷いた。
「ねえユーリ、ところでどうして待ちなの?」
沈んだ空気を払拭しようとしてのことか、純粋な疑問のためか――恐らくは半々――不思議そうに口を開いたカロルに、ユーリは空を見上げる。
「良く晴れて絶好の撮影日和、なんだが……。撮ってる作品のことを考えれば不味いんだよ」
「…………あ、ひこうき雲、です? ユーリ」
「正解」
「そうなの?」
正解を出して嬉しそうなエステルに、まだ答えが疑問の穴にはまらない少年が首を傾げた所で、少女の声が響いた。
「ひこうき雲は、ジェット機のエンジンから出る排気ガスの中の水分が高高度の低温下で氷結することによって出来るもの。……この話の中に飛行機なんて科学の産物は出て来ないんだから、あったらおかしいでしょ」
「あ、そっか。リタ、良く知ってるね」
「理科の知識と雑学。別に大したことじゃないわ」
「そんなこと無いです。色んなことを知ってる方が、演技に幅が出て良いんですよ。ユーリもそう言ってましたし」
ね、とエステルが笑顔で青年を促すと、そうだなと彼は頷く。
「素地は十分なんだから、後はこの世界独自のルールが頭に入れば向かう所敵なしなんじゃないの」
「あら、それは強敵ね」
「ファイトです、リタ!」
いつもの微笑に悪戯な雰囲気を覗かせて言ったジュディスに、純粋に少女を応援するエステル。それぞれの言葉に感じた励ましに、リタは落ち着かなさげに視線を彷徨わせた後、小さく礼を口にした。
「リタっちが元気になった所で、お茶しに行かない? 青年が予想した通り、待ち、だって」
「そうだね。……でも、この作品って戦闘中の術技とか、魔導器の効果には惜しげもなくCG使うのに、天気関係だと殆ど無いよね」
拡声器を使ってしばらく待機の旨を知らせる助監督を指差した男に、カロルが頷きながら疑問を口にし、なんでだろうと首を傾げる。
「美術でも難しい所には盛大に使うけど、それ以外に何とかなることなら極力自然のままに撮る、ってのがあの監督の持論みたいだな。その分時間が押すこともあるけど、作り物では出し切れない質感が出て、それがこのシリーズの売りの一つでもあるんだし」
「このシリーズのメインキャストは、撮影期間中は拘束され易いんだけど、その代わり作品作りの勢いとか熱意は凄いから演ってて楽しいのよね」
年上の男二人の言葉に感心したように声を漏らした少年は、青毛の犬を伴って撮影所の一角に用意された休憩場所に向かって歩き出す。女性陣三人もそれを追って、談笑しながら歩き出し、残ったのは大小二つの影。
「青年の口から聞けるなんて、年月を感じさせるわねぇ」
「……今のあんたを見てると、トラウマもんだけどな」
「えぇっ!? 酷い青年!」
「そういうとこだよ。フレンは完全に演技だって思い込んでるけど、これが真実だって知ったらどうなるんだか」
それはそれで少し見てみたい気はするけど、小さく肩を竦めて呟きながら歩き出したユーリ。そんな長身の青年の後姿を一歩後ろで眺めて、遠い記憶との差異に改めて年月を感じた男は、ふと口元を持ち上げながら続いて歩き出す。
彼らの頭上にはまだ、青い空に一条の線の如く鮮明な白いひこうき雲が描かれたままであった。
*実は青年とおっさんは昔に知り合っているんです、はい。