【本編第二部/IFの世界「endless world」設定/掌編】
※この掌編はIFの世界の「endless world」設定が前提となっています。この掌編につきましては、「38.デジャヴ」「63.フラッシュバック」の同設定掌編と違い、「endless world」のジュディス視点という形を取り入れている為、上記作品に準拠している描写中に死について連想させる表現があります。「endless world」の設定、世界観について、関連話を読了済の方にご覧頂くことを推奨しています。ご了承の上、ご覧ください。
これ以上無いくらいに濃密なエアルが漂う場に、ヒトよりも感覚器官が発達している彼女は、眉をしかめながら槍の柄を床に突き、ともすれば崩れ落ちそうになる体を支えた。
共にこの御剣の階梯まで来た仲間達もまた、エアルの濃さに顔を歪め、少女に打ちのめされた体を必死に起こしている。
満身創痍ながらも何の助けも無く両足で立っているのは、もはや黒髪の青年のみ。
その青年と、自由を奪われた操り人形となっている少女は、剣を手に対峙している。
――そして。
紡がれる光の力。
一瞬にして収束、弾けるそれに、エアルを纏って防御する姿。
濃いエアルが仇となったのか、一瞬の隙が生じた。
駆け抜ける姿。
重なる姿。
青年の背中を突き抜けて見える白銀の切っ先。
重たげに持ち上げられた手が飾る花の髪飾り。
手から滑り落ちる宙の戒典、響く金属音。
細い腰に回された腕が、ゆっくりと滑り落ち、力を失くして重なる少女にもたれる姿。
上がる慟哭。
飽和するエアルの収束――、
風に歌うような鳴き声に、彼女はふと視線を上げた。
「……バウル」
ヘリオードから離れた深い森の向こうの、人が足を踏み入れない平地。鎧兜を手にしたまま雨の中に立ち尽くしていた彼女は、傍らの温もりに手を伸ばした。
長い、それは長い、けれど一瞬の白昼夢。
現れては消える泡沫のように、同じようで違うそれが繰り返される、そんな現実のような夢。
けれどそれなら、何故、こんなにも胸が痛むのだろう。
瞬きの間にも零れ落ちていく「夢」に、体の一部が奪われたような喪失感を覚える。
もはや残るのは、残滓と呼ぶにも少なすぎる欠片だけ。
「あの、二人、ね」
これまでにも邂逅してきた人間だった。
今回違うのは、初めて真正面から見据えたことだろう。
いつの間にかあった「欠片」が、欠片を呼び起こし、彼女を白昼夢へと誘った。
何度も、何度も、何度も……繰り返されてきた、終わりと始まりと永遠の輪の一端。
しとしとと降り注ぐ雨が、彼女の長い睫に落ちて、弾ける。
「ごめんなさいね、いつまでも。……行きましょう」
軽く撫で、兜を被る前に水滴を振り払うように頭を振った彼女。
けれど、冷たい雨に紛れるようにしながら頬に作り出された、温もりを伴った一筋の道は消えることはなく。ただ、それを作り出したナミダは世界に落ち、僅かな「欠片」をその懐に。
――それはいつか、くりかえすせかいをこわすそのかぎとならん。
*今まではユーリとエステルばかりでしたが、他の人物視点でも。