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72.本日は晴天ナリ

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ21歳・レイヴン35歳・カロル12歳/秋/掌編】


『マイクテスト、マイクテスト。本日は晴天ナリ、本日は晴天ナリ、本日は……』
 確かにその通りだよな、と青年は大きく広げられたブルーシートの上で空を仰ぎながら思う。
「はぁ……、何でおっさんがこんなことしてるんだろうねぇ」
 日曜のこんな時間に、と続いたぼやきに、視線を下した青年が言った。
「何で、ってそりゃ、依頼されたからだろ、おっさんが」
「うちの所長<ドン>とディーネ園長は昔からの知己だしねぇ。でも青年、うちは何でも屋じゃなくて探偵事務所なのよ?」
「そうなの? その割には探偵っつーより『何でも屋』の仕事の方が多いんじゃない」
「それはドンがどっかからか依頼を持ってくるからで……」
 はあ、と落ち込んだ様子の男に、青年は持ってきていた荷物に目をやって言う。
「別にいいけど、そうなったらこの鯖味噌はチビどもにやるか。あとジュディが持ってくる予定のは代わりにオレが食べるとして……」
「ひ、卑怯よ青年! ジュディスちゃんのお弁当は勿論非常に魅力的だけど、自分の料理の腕を盾にしておっさんの弱点突いて鯖味噌!?」
「盾にしたわけじゃないっての。依頼とは言え、早朝から場所取りやってくれてるんだし、昼飯くらいは好きなもんでも持ってってやるかって作ってきただけだし」
 言いながら、ぽんと一つ傍らに置いてある風呂敷包みを叩いたユーリ。
「あれ? ユーリに、レイヴンまで?」
 不思議そうな声が掛けられ、青年は視線を向けて手を上げた。
「よお、カロル先生」
「もしかしてディーネに頼まれて場所取り?」
「ああ。あと昼飯の一部担当な。おっさんはオレが来るまで校門の前に並んでる係」
「早朝五時からばっちりよ。青年が来てからは荷物持ちで、スタートダッシュは任せたけど」
 開門と同時に素晴らしいスピードで校庭に入り、短距離走のゴールが良く見え、かつ昼時には丁度木陰が出来るという絶好の位置に、ブルーシートを手際よく広げて場所を確保したのが遠目に見えた。
 との、レイヴンの解説に、カロルは僅かに乾いた笑いを浮かべる。
「だから最近、ディーネと色々話してたんだ……」
「ああ。良く見えて、しかも涼しい場所ってな。というわけだ、昼飯はジュディも作って来るし、ディーネは張り切って三脚用意してたし、期待してるぜカロル先生」
「おっさんもデジカメ係を仰せつかっちゃったしね~。良い場面撮ったら報酬に色付けてくれるって言質取ってるから、被写体には頑張ってもらわんと」
「……ユーリとジュディスのお昼ご飯は楽しみだけど、無茶言わないでよレイヴン」
 はあ、と一つ溜息を吐いた少年はもう行かなきゃと言って校舎へと向かって行った。残された青年と男は、しばらくその後姿を見送って溜息。
「仕事さえ無けりゃ、フレンの奴を是が非でも引っ張ってくるってのに」
「仕方ないっしょ。今の青年は学生さんなんだし」
「それもあるけど、結局あの園の出身者はどうあったって最終的にはディーネに敵わないんだよ」
「出身者じゃなくったって、右に同じー。おっさんは勿論、うちの所長もね」
 空を見上げて思い浮かべたのは、彼らが一番古い記憶から持ってきたとしても今とほぼ変わらない女性の微笑する姿。
『マイクテスト、マイクテスト。本日は晴天ナリ、本日は晴天ナリ……』
 軽いハウリングと共に再び響きだした音響テストの声に紛れ、二つの溜息が零れる。
『――本日は晴天ナリ、……以上』
 言葉に偽り無く晴れ渡った青空の下、二人の男達はまだ長い今日一日のことを思い、三度溜息を吐いた。

*そう言えばマイクテストでお馴染みの文言だよなー、と言うところから連想で。レイヴンの上司である所長は、勿論ドンです。

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