【ED後/「1.ほおづえついて」のその後/エステル視点/掌編】
「ユー……」
視線を向けながら呼びかけようとしていた彼女は、視界に入ったその光景に、あ、と慌てて口を閉ざした。
そして少しの間を置いて、それまで開いていた本をこれ以上ないくらい慎重に静かに閉ざし、掛けていた眼鏡を外して表紙の上に。物音を立てぬように腰を上げれば、彼女の足元に伏せていた部屋の主の相棒が気付いたのか、ぴんと耳を立てて顔を上げる。
「しーっ、ですよ、ラピード」
小声で囁きながら口元に人差し指を置いた少女に、察しの良い彼はまるで分かっているとでも言うように静かに鼻息を漏らし、再び顔を下ろして休む体勢に戻った。
小さく笑ってから慎重に窓辺に座る青年の元へ歩み寄った彼女は、窓枠に頭を預けて静かに寝息を立てる姿に珍しい、と呟く。
「仕方が無いかもしれないです、ね」
聞けば今日の夜中に帰ってきたのだとい言う。午前中に荷物の整理や剣の手入れはしていたということだが、今日は食事以外では部屋を出ていない青年。それでもやはり、疲れているのだ。
もうすぐ帰る、という知らせがエステルの響きの鐘に伝えられたのは二日前のことだ。待っていると返事を返した翌日、もしかしたらという思いでこの部屋の前に来たが空振りで、また翌日の午後に来るとメモを残して明日こそと期待しながら城へと戻った。
予定されていた公務を急いで片付けて下町へ来て、窓辺に腰掛けて外を眺めている姿に歓喜したのは数時間前。一面の青に白い雲だけだった空も、地平線近くが徐々に色を変えてきている。
いくら良い気候とは言え、夕方になればもっと冷えてくるだろう。疲れている所に体を冷やせば、いくらこの青年とて体調を崩しかねない。起こさなければ、と思いつつも、気持ち良さそうに眠る姿に声を掛けるのが躊躇われた。
「……お疲れ様、です」
ふと、悪戯心からふわりと青年の頬に唇を寄せた彼女は、それでも目覚めない様子に苦笑する。
「ワフ」
休みながらも様子は窺っていたのだろう、薄目を空けている青い毛並みの彼を振り向き、分かっているとばかりに頷いた。
「今のことは秘密、です」
「……ワフ、バウ」
「ふふ。それじゃあ、起こしますね」
そうして楽しそうに笑みながら手を伸ばした彼女は、眠る青年のすっと通った鼻梁の先を軽く摘みあげた。
*1の続きでありED後スタッフロールの例のあれな場面だったり。