【ED後/原作ベース/レイリタ/短編】
いつの間にか一人で生きていた。何の因果が働いたのか、十年経って「生まれ変わって」、それからさらに数年が経とうとしている今、男の環境がまた更に変わろうとしている。
「人生って、思った以上に波乱万丈よね、青年」
「何だよおっさん、藪から棒に」
「だってねぇ。思い返してみればそうとしか言い様が無いんだもの」
ふぅ、と息を吐きながら手にしていたグラスを揺らせば、透明な玻璃の内側に満たされた琥珀の液体の中で氷がカラリと音を立てた。
「……ああ、何、マリッジブルー?」
「いやいやいや、そうじゃないって」
「否定してるけど、オレからしたらそんな風にしか見えないっての」
どこか呆れたように言い肩を竦めた彼は、向かい側に座る男を見る。髪形はいつものままだが、さすがに今日、女性二人に厳命されたからなのだろう、無精ひげは綺麗に剃られている。だからなのだろうか、実際の年齢よりも軽く五歳は若く見え、密かに感心してしまった。
これなら男がそれなりに気にしている年齢差も、見た目的には問題ないだろう。
「俺様のシングルライフも今日で最後なのね」
「何言ってんだか。決めたのはおっさんだろ?」
青年がグラスを傾けてから、軽い調子で呟かれた男の言葉に返すと、男はう、と口を閉ざした。
「……そりゃ何て言うか、ねぇ」
「まあ聞いた時はやっとかと思ったと同時に、何が決め手になったのかとも思ったけど。八年も経ってから、だし」
目の前の男と、その相手となる少女――否、今は何処から見ても文句なしの大人の女性の両名を良く知り、そしてその関係が結ばれる前からの一端とその後の様子も知っていた青年としては不思議に思うばかりだった。
男の年齢が年齢だけに、少女がようやく二十歳を迎えてその関係が変わったことを知った後、すぐにでもそういう話が出るのだろうと思っていたが、彼らは相変わらずだった。一方はアスピオの後に魔導士達が移り住んだシャイコスで研究の日々を、もう一方はダングレストとザーフィアスを行き来しつつ仕事の日々を、という変わらない生活を送るばかりで。
業を煮やした青年の妻であり女性の親友は、いつぞやか女性が同席する中で男を問い詰めたことがあったのだが、それに対して女性は何てことないと言った風に言ったのだ。
『別に無理にそういう形にこだわる気は無いし。そんなことしなくたって、おっさんがあたしのものになったのは、あたしが一番良く分かってる』
それを聞いて一応の反論をしようと口を開きかけていた男は勿論のこと、男を問い詰めていた女性も、それを静かに見ていた青年も絶句し、それぞれに脱力した。
青年が思い返していた「その時」を男も思い返していたのだろう、重なった溜息に男が苦笑を隠さないまま口を開く。
「あの時も、おっさんはそういう年だったし、押されて頷いたとは言え自分で納得したことだから、きっちり責任取ろうと思ってたのよね。で、あの漢前な発言でしょ? 言えなくなっちゃったわけよ」
「あー…………、確かにあれは、らしいとは言え、えらく漢前な宣言だった」
「でしょでしょ。おっさん惚れ直しちゃったし」
「……惚気か、おい」
「で、言えずにさ、ずるずるここまで来ちゃったわけで。けど正直、きちっと形にしておきたいなー、なんて。年々どころか月単位で磨きが掛かってるし、仕事終わって会いに行く度におっさんの心臓がやばい上に、うっとうしい視線も多くなっていくし」
元々年齢よりも幼く見られていた少女だが、さすがに二十歳を過ぎた頃からは「大人」に見られるようになっていて。出会った頃を知っている青年は同意するように頷いた。
「一緒に住んで四六時中見てれば慣れるだろうし、ついでにうっとうしい視線を蹴散らせるだけの立場も確約されるし?」
「自由気ままなシングルライフを捨てても、と思ったからね」
ぽつりと答えて視線を逸らしながらグラスの中身を一気に呷った男に、青年は口元を持ち上げて、手にしていたグラスを僅かに高く上げる。
「まあ、おめでとさん」
「青年には既婚者の先輩としてこれからも色々頼むわねー」
「……夫婦喧嘩の避難所にはすんなよ」
照れたように声を返した男に、「先輩」は笑みを苦笑へと変えてグラスを傾けた。
*密かなレイリタシリーズの数年後。「4.好き」の告白から始まり、08年クリスマス企画の話、キスのお題の「手の平の上なら懇願の」、そして既に完売していますがオフの「サラダ記念日?」の購入者特典おまけ未来編の二人、という感じでこの話となっていたりします。