【本編中/第三部終盤/追憶の迷い路/パーティメンバー/掌編】
「凄い、花も再現されてます」
「本当だ。どうせだし、此処で休んで行こうよ」
一定の距離を進む度に唐突に変わる景色。世にも不思議なその迷宮をそれなりに順調に進んでいた一行は、今、現実ではクオイの森に当たるのであろう場所の花園を見つけていた。
エステルが感心したように呟いて、カロルがその隣で提案して一歩を踏み出そうとした時、
「ちょっと待った」
と、普段の態度からは中々想像出来ない真剣な男の声が響いた。
「何だ、おっさん。何かあんの?」
「まあねぇ。悪趣味な小細工よ」
はいはい、ちょっとごめんねー。と、エステルとカロルの間を割って歩を進めた男は花園の入口で立ち止まり、屈みこんで咲き誇る花をつと突く。ふわり、僅かに立ち上った花粉に、レイヴンは口元を手で覆ってから素早く後退る。
「やっぱねぇ。おっさんはある程度耐性あるし、青年とかジュディスちゃん……嬢ちゃんも辛うじて大丈夫かもだけど、少年とリタっちは厳しいわね」
「わたしは大丈夫で、リタとカロルは駄目なんです?」
「それ、ドラッグね」
不思議そうな表情で小首を傾げたエステルの隣に並び立った魔導少女は、男の言葉を聞いて眉根を寄せながら言った。
「さっすがリタっち。魔導器以外もお詳しいとはおっさん参っちゃう」
「折角天変地異並に珍しく真面目なんだからちゃかさない! 別に詳しいわけじゃないわよ。ただ、おっさんの行動と言葉で分かっただけ」
天変地異並に珍しい、という言葉にショックを受けたようなレイヴンは放って置いて、いつもと同じ微笑を湛えながらジュディスが口を開く。
「おじさま、花粉を吸わないようにしていたわね。それに、騎士団隊長首席ともなればそちらの方面で知っているのだろうし、耐性もあっておかしくない」
「ボクとリタが駄目なのは…………体の大きさ、とか?」
カロルが考え込んでからジュディスの言葉を継ぐと、ユーリが肩を竦めた。
「カロル先生ご名答。薬ってのは体の大きさで効き易い量も変わるし」
「だから、わたしは辛うじて、なんですね」
納得したように頷くエステルに、レイヴンがそういうことと言った。
「リタっちが言ったのは半分正解。あの花の花粉、普通の状態でも強い幻覚作用を持ってる。その花粉を特殊な方法で精製することで、幻覚作用を持つドラッグになるってわけよ。そっちはほんの小指の先に付いたくらいで、大の大人が酩酊状態にも似た状態になっちゃうくらい」
仲間の元に戻ってきた男は、花園を肩越しに振り向いて続ける。
「それに比べれば、あっちはまあ、少しくらくらするかなーくらい? 吸い過ぎたらそうも言ってられないけどね。ね、悪趣味な小細工でしょ」
「あのふざけた声の主が作り出している場所なら、有り得なくは無いな」
忌々しげに男に同意した青年は、先へ進むべく仲間達を促した。男はちらりと背後を振り向いてから、一行の後を追ってその場を後にする。
人気の無くなったその花園は、見た目だけは楽園の如く存在し――やがて始めから無かったのが当たり前のように、ぐにゃりと歪んで消えた。
*「20.ジャンプ」の後のようなお話。たまにはおっさんに花を持たせてみる。(持ってないけど)