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49.さみしい

【ED1年後くらい/ユリエス/掌編】


 カリカリ、と紙面をはしるペンの音と、時折頁をめくる音だけが響く部屋。それらの音を生み出している少女は、ふと手を止めてペンを置いた。
 ずっと俯きがちに紙面に向けていた顔を上げ、溜息を一つ。
「ふぅ……」
 思った以上に大きく響いたそれに苦笑しつつ、彼女は指を折って何かを数え始めた。
 折って閉じ、立てて開き、そんな風に手を閉じては開いてを数度繰り返した後、再び彼女の口から溜息が零れる。
「――――今日で二ヶ月、です」
 少女が思い浮かべるのは黒髪の青年。
 二ヶ月前、彼と彼の所属するギルドの仲間は、この花の街に立ち寄り、依頼の為にすぐ出立していった。今回の仕事が終われば少しゆっくりする予定だ、と言って次の訪れを約した青年に、少女は楽しみにしているからと精一杯の笑顔で彼等を見送ったのだった。
 帝都では若き皇帝の補佐である副帝として、花の街では新米の童話作家として。この二重生活を選んだのは彼女自身だ。最近は帝都での仕事が忙しく、二つの街の往復しか出来ない。これには副帝として自らの代わりに世界を見て欲しいと言った皇帝も申し訳なさそうだったが、この忙しさは古き因習を良い方向へ変えてゆくもの。そう思えば、仕方の無いことだ。
 言い聞かせるようにして、今頃世界を飛び回っているだろう彼の青年のことを思いながら日々を過ごして。
 そうして二ヶ月。
「……ユーリ」
 どうしようもない寂寥感が心の中を渦巻いて。少しでもそれを抑えようと名を呟いてみても、それは逆効果となり余計に胸が痛くなった。
 ――さみしい、です。
 吐息を共に零れた囁きに、少女が自嘲を浮かべたその時。
「オレも」
「……っ!」
「エステル、ただいま」
 少しだけ疲れたような、けれど柔らかな笑みを浮かべて言った青年に、エステルは飛び上がるように椅子から立ち上がると迷い無く飛びついた。
「ユーリ……! ほんものです?」
「幽霊ならあんた今頃此処通り抜けて廊下の壁に額ぶつけてるんじゃない?」
 揶揄するような小さな笑いを含んだ返答に、ゆるりと支えるように腰に回された腕に、少女は眦に涙を浮かべながら笑う。
「その言い方、間違いなくほんもののユーリです」
「分かってもらえて何より。……で?」
「なんです?」
「言うことがあるんじゃないの?」
「例えば二ヶ月も音沙汰無しでいっぱい心配させたユーリへの文句とかです?」
「……あんたも言うようになったな」
 ふふ、と笑って青年の胸に頬を寄せたエステルは、響いてくる鼓動を耳にしながら彼の望む答えを紡いだ。
「おかえりなさい、ユーリ」

*たまには正統派なラブをと思いつつ。

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