【芸能界パラレル「Act!」設定/撮影所にて/掌編】
※この話はMainの「Parallel world」にある芸能界パラレル「Act!」設定での掌編です。詳細はそちらの設定をご覧下さい。こんな特殊なパラレルでもオッケーという方は、折りたたみの中(携帯の方はこの下)をご覧下さいませ。
屋内外に設営された本物と見紛うばかりのセットの中には、中盤の幾つかある重要な場面が集中する、砂漠とその中に存在する街が再現されているものがある。
その大きな街の宿屋が今回の撮影の舞台だった。
闇の中、僅かな照明だけが灯る部屋。寝台に横にならずに壁際に座り込んでいた彼は、立ち上がる。
「オレはオレのやり方で……か」
己の右手を見つめ、まるで言い聞かせるように呟いた黒髪の青年。手を下ろし、顔を上げた……その刹那、空気が変わった。
彼は静かに眠る仲間達をしばしの間見つめた後、剣を手に一人宿を出て行く。
残るのはただ、静かな寝息と、遠く響く虫の音だけだった。
『カーット!!』
と、響いたその声に何もかもが霧散する。
屋内の照明が灯り、闇がすっかり拭われる中、それまで寝台に横になっていたエステル、リタ、カロルも起き上がった。スタッフに促されるまま、セットを出てモニターのある方へ向かうと、この場面では出番の無かったジュディスとレイヴン、フレン以下のキャスト達がそれを覗き込んでいた。
「お疲れ様」
いち早く気付いたジュディスが微笑のまま彼等を労うと、三人は案内されるままにモニターの正面に陣取り、今撮り終えたばかりの場面のリプレイを見た。
「……凄かった」
見終えたカロルの呟きに、レイヴン、フレンが頷く。
「確かに。いやー、あの切り替えは変わってないねぇ」
「ユーリは『役の空気』を意のままにしてしまいますから。……子役からやってきた僕の方が芸歴は長いはずなのに、敵わないなぁ」
子役の頃から青年をよく知る二人の感想に、エステルが口を開いた。
「……わたし、ユーリの演技を見て、この世界に入りました。あの空気に、とても惹かれて。だから同じ場所に立って演技しているのが、今も不思議なくらいです」
「何か、分かる気がする」
リタもぽつりと呟いて、監督の居る方へと目を向けた。そこには、監督と共にモニターを見つめている黒髪の青年が居る。
間も無く笑顔で監督が声を掛けると、助監督が拡声器でオッケーの声を上げた。すると停滞していた時が動き出したかのように、次の場面の撮りに向けて、スタッフが作業を再開し始めた。
監督と話を終えた青年が皆の集まるモニターの方へ歩み寄ってくると、僅かに緊張したようにカロルが顔を上げたが、ユーリは軽い調子で片手を上げて口を開く。
「よ、お疲れさん」
途端、がくんと力が抜けたように肩を落とすカロル。リタも詰めていた息を吐き出し、エステルは二人の反応に小さく笑った。
「お疲れ様です、ユーリ」
「ああ。……そこの少年少女はどうしたわけ?」
「うーん、ちょっと青年の演技に当てられちゃったみたいね」
「うふふ、おじさまの言う通り、確かに刺激的だったわね」
青年の疑問にレイヴンとジュディスが答えれば、フレンが笑みながら続ける。
「さすがだね、ユーリ」
「……別に、大したことはしてないと思うけど」
肩を竦めた彼は、しかしすぐに名を呼ぶ声に肩越しに振り向いて踵を返した。
「悪い、すぐ次みたいだし、先に行くわ」
「僕はもうすぐだね。楽しみにしてるよ」
「モニターから見てますね、ユーリ」
フレンとエステルの声に軽く手を振って、街の外が再現されているセットへと向かうユーリの後姿を見送りながら、カロルが呟く。
「ユーリみたいに、なれるかな」
「ええ。カロルは努力家だし、伸び盛りだもの。大丈夫よ、きっと」
「にしても、寒気がしたわ、さっき。あたし休憩室でお茶飲んでくる」
「リタは見に行かないんです?」
「休憩室にもモニターあるでしょ、そこで見るわよ」
言って、先にさっさと屋内セットの中に設けられていた休憩室の方へ向かった少女に続くように、カロルがボクもと言って駆けて行く。
「エステリーゼ様は見に行かれるのですよね」
「はい。フレン、今は休憩中ですから様付けしなくても良いですよ?」
「ああ、つい。では行きましょう、エステル」
「私も一緒に行くわ」
「ジュディスちゃんが行くなら俺様もー」
そしてそこから彼等が立ち去り、刹那の空気が生まれた場所はやがて先ほどのように静まり返った。
*「50.許さない」の後。あらすじ76の例のシーンを芸能界パラレルで。