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58.記念日

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ22歳・エステル19歳/掌編】

「ほい、新作」
「わ。有難う御座います、ユーリ!」
 目の前に静かに置かれた白いプレートの上には、その色と同じ白い色の楕円形のムースが二つ。そこに果肉が混じったピンクのソースが掛けられていて、目に鮮やかである。
「ユーリ、これ……ハート、です?」
「そう。普通に形を作るんじゃなくて、楕円二つを組み合わせてな」
 少し変形した二つの楕円が組み合わさることで、細長いハートに見えるようなそれ。
「可愛いです。このソースの色もそうですけど……、何でしょう?」
「食べてみたら?」
 口角を持ち上げながら促す青年に、エステルは静かに銀のフォークを手にして、そっとその端を切り離して口へと運んだ。
 ほどよく硬さのあるムースは、しかし口の中へ入った途端に溶け、仄かな酸味を残して消えていく。
「これ、ヨーグルトです?」
「ああ。あまり酸味がきつくならないように、風味程度にしてるけど」
「ソースも酸味があって……、あと、少し苦味があります? この果肉は、オレンジと似ているような気がしますけど……」
 ソースの掛かった部分を続いて口へ運んだ彼女は、しかしこちらは完全には分からなかったのか、感想を紡ぎながらも首を傾げている。
「惜しいな。柑橘系なのは合ってるけど」
「この色は食紅を使ってるわけじゃ……ないんですよね?」
「ああ。天然もの」
「ええと…………、降参です」
 分からない、と眉尻を下げて言ったエステルに、ユーリは小さく笑いながら口を開いた。
「ピンクグレープフルーツだ。丁度今が旬だしな」
「そうなんです?」
「そう。味わいもイメージにピッタリするし?」
「イメージです?」
「甘酸っぱくて、少しほろ苦い。あんたと会うまで、そんな思いするなんて思ってみなかったんだけどな」
 意味深に言って微笑した青年に、エステルはしばしの間小首を傾げて考え込み……、そして思い当たったのか、あ、と声を漏らす。
「もしかして、その……、恋、です?」
「一年前の今日、だろ」
「あ……、そう、でした。今日ですね」
「まあ、あんたにとってはあんまり良い日じゃなかったかもだけど」
「それは、その。確かにそうでしたけど、でも今は、ユーリに出会えた日ですから」
 にこりと笑んで、それからふと気付いたように彼女は尋ねた。
「月替わりの前に新作頂いたのに、またと思ったら、記念日だからです?」
「そういうことだな。いつ気付いてくれるかと思ってたんだけど」
「う、その……済みません」
「んじゃ、エステルから一口くれたらスッキリ水に流す」
「……わたしから、一口、です?」
 エステルから。
 その言葉の意味を考えて、もしかしてそれは自分から食べさせるということなのだろうかと思い当たった彼女は頬を染めて青年を見て、婉然と笑みを返した彼に更に頬を染め上げた。
 それは白いプレートの上のハートを染めた、ピンクよりも鮮やかに。

*出会って二年目の春。丁度、あの出会いから一年後ということで。

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