【騎士姫パラレル/短編】
「何日ぶりでしょう」
「おおよそ一週間ぶりです、殿下」
「ユーリ、その口調」
「分かっております。ですが殿下、先に結界を」
促され、少女は「あ」と言葉を止めて苦笑した。部屋備え付けのテーブルに歩み寄った彼女は、その上に置かれた小型結界魔導器に手をかざす。
防音と他者の侵入を防ぐその結界装置は、少女の友人である天才魔導士が造り上げたものだ。
ふ、と変わる空気。
途端に背中から抱き締められた少女は、自ら寄り添うように青年の胸にもたれた。
「久し振りだが、あんま長居は出来ない。悪いな、エステル」
「……いいえ。今日も、無理をして来てくれたでしょう?」
「長期視察の間、護衛隊の件も含めて調整するのは、あんたの近衛騎士であるオレの役目だからな。……仕方ないっちゃ、仕方ないんだが」
勿論、公式の場では彼女の近衛騎士として常に傍に付いているユーリではあったが、その代わりそれ以外の時間ではどちからかと言えば裏方のような仕事で目も回りそうな忙しさだ。
傍に居られる時は「公」の態度しか取れず、少ない「私」の時間は顔を合わせる暇さえ無い。
旅先ではうっとうしい目も減り、その辺りは快適ではあったが、しかし現実がこうとなると、城に居た方が余程良いのでは無いだろうか。
ユーリは少女の肩口に額を乗せて溜息を吐いた。
「大丈夫です?」
「ああ。悪天候にさえ見舞われなければ、帝都まであと二日ってとこだ。何とかな」
「もう少し、余裕があればもっと良かったんですけれど」
残念そうに呟いたエステルに、しかしユーリは苦笑する。
「皇族の、しかも現陛下の副帝ともなれば、これくらいだって余裕がある方だ。今回は陛下が即位され、それに伴ってあんたが副帝となってから初めての公式視察だから、事前に念密な根回しとかしてたけど色々噛みあわない所があってそこんとこの余裕が無かっただけ」
「そう、なんです?」
「オレが近衛に就いてから数年。その間に鍛えたから、あいつらに護衛を任せることに不安は無いけどな。でもあんたは色々あって、副帝になる前は帝都外への視察をしたことが無かったろ? これからこういうことがあれば、じきに慣れる。……と、こんな話をしに来たんじゃなかった」
青年の腕の力が緩むと、腕を引かれるままに向かい合ったエステルは、降りてきた端正な顔に気付いて仰向いて瞼を閉ざした。
柔らかな熱が重なり合い、離れ、重なる。
「ん……、ユーリ……」
「先に言ったけど、時間の余裕が無い、あと……オレの余裕も」
背中に回された腕が器用に背筋を撫で上げ、彼女のお気に入りの青いドレスの肩をずらし、顕わになったなだらかなそこに唇を落とした。
「大丈夫、でしょう、か」
「外?」
「はい……」
「魔導少女のお墨付きだ。余程の声を上げなきゃ、問題ないだろ」
「……っ」
「抜け出して来た手前、隊の奴等には、悪いとは思うけど。まさか、正直に何をしに行くかなんて言えないし」
「そんなの、当たり前、ですっ」
誰にも、そう、二人の想いを知る本当にごく少数の友人達にさえ。
帝国の若く美しい慈愛の副帝と、その傍に常に控える騎士の中の騎士たる聖騎士。
その二人が、互いを渇望して夜に忍んでいるなんて。
誰にも言えない。
*捏造騎士姫シリーズの一作。「10.生まれる前」の更に未来のお話。