目的地であるマンタイクに到着したのは、ナム孤島で夜を明かしたその翌日の昼過ぎのことだった。
カタリナが夫の居る貸家に入り、寝台で半身を起こす彼と抱き合って再会を喜んだ後、一行を見送る為に部屋を出た彼女はカロルへと依頼料を手渡す。
「有難う、貴方達のお陰で無事に此処まで来ることが出来たわ」
「どう致しまして。それより、カタリナさんはこれからどうするの?」
「嬢ちゃんが治癒術掛けるから少しは軽くなるだろうけど、まだ長距離の移動は難しいだろうしねぇ」
今、正に部屋で治療中のエステルのことを言うレイヴンに、カタリナは頷いた。
「それに今度は私の方が難しいもの。船と荷馬車を乗り継ぐよりずっと快適で早く到着した行程だったけれど、やっぱり少し負担になっていたみたい。幸い、この家はギルドの持ち物でしばらくあの人が使えるように手配されているし、産婆さんも紹介されたから此方で産んで、落ち着いてから二人でゆっくり帰ることにするわ」
「そうね、それがいいと思うわ。その時に声を掛けてくれたら、また私達が請け負うわよ。今度は貴方と、旦那さんと、赤ちゃんの三人を」
うふふ、と笑いながら言ったジュディスに、カタリナはくすりと笑む。
「少しは知り合い割引が効くかしら?」
「う、うーん……。割引はやってないけど、でも、出産祝いで勉強はするよ?」
「あんたも言うようになったじゃないの、ガキんちょのくせに」
「そりゃ、ボクは成長期だし」
「その割にはあんまり背は伸びてないんでないの〜?」
リタとレイヴンに言われ、それを微笑で見ているジュディス、そしてその足元で欠伸をしているラピード。
「いい仲間ね」
「ああ」
「迷いは、晴れたのかしら?」
「何のこと?」
「あら、誤魔化されなくってよ。今朝の様子を見れば一目瞭然だもの。私だけじゃなくて、ヤキモキしていた皆さんも、だから今はあんな風に憂いなく笑っているんじゃないかしら」
くすり、笑って言ったカタリナに、ユーリは口元を持ち上げた。
「答えは、とっくにあったんだって、ようやく気付いたからな」
「いつか『リナ』が『騎士様』にした問いかけ、かしら」
彼女の問いに、ユーリは静かに視線を上げて、そしてその先に見つけた姿に瞳を柔らかに眇める。
「見つかって良かったな、あんたも、オレも」
「そうね、お互いに」
黒髪の青年を見つけてぱっと顔を綻ばせる少女を見て、微笑ましそうに答えを返した彼女は夫の治療の礼を言うために自ら歩みを進めた。
その様子を眺めながら、彼は右手を見下ろす。
まだ迷いは全て消えたわけでは無い。けれど、今まで見えなかった「先」が、はっきりと現れた。それだけでも今は良いのかもしれない。
「ユーリ!」
今はまだ。
はっきりと、離せない存在なのだと己の中で定まっただけでも。
そう思いながら彼は、手を振る少女の下へと歩き出した。