「Happy Happy Birthday!」より冒頭
ふと目の疲れを覚えて手を止めた彼女は、時を示す魔導器――親友である帝国随一の魔導士お手製――を見て、あと数分で『今日』が終わることを知った。
「いけない、早く休んでくださいと言われていたのに……」
明日はエステルの誕生日だ。
昨年までは、次期皇帝位継承者が正式に決まっていなかった為、内輪でささやかに祝うのみであったが、今年無事に新皇帝は即位し、彼女もまた副帝となった。従って、正式に誕生祝賀会が催されることとなったのだが……。
「ユーリとゆっくり話せる時間は、とれなさそう、です」
ふぅ、と残念そうなため息が漏れた。
この国に白と黒の騎士あり。
通常は皇帝または次期皇帝位継承者にだけ許される近衛隊。しかしエステルは皇族の始祖たる満月の子と同等の力を持つ当代の満月の子とされた為、皇族に時折生まれる満月の子に許された数ある特権――もしくは義務と言う――として、近衛騎士と近衛隊を持つこととなった。
皇族の近衛騎士は騎士の中の騎士『聖騎士』の称号が与えられ、時として主の代理として動くこともあることから、警護に関しての一切の責任を持つことになる。
故に、エステルの近衛騎士であるユーリは、ここ数日は主の初めての公式な誕生祝賀会開催に当たって、そのあらゆる事象への指示や打合せで主役本人以上に忙しいらしく、今日などは朝に予定の確認と警備の騎士との顔合わせの際に少し話しただけ――しかも内容は公的なものなので、エステルが話したいユーリではない――なのだ。
それでも少しだけ期待していた夜の訪れだが、この時間ではそれも無いだろう。
もう一つ、溜息が漏れて、エステルは自嘲した。
「ユーリは、わたしの為に頑張ってくれてるんですから」
明日、祝賀会での予定でも賓客との挨拶が終了すれば少しは時間が取れるだろう。それに、会場に行く前に僅かでも主従でない二人として言葉を交わせるかもしれない。
そう期待しながら本を閉じ、眼鏡を置いて椅子から立ち上がった時。
控え目に扉が叩かれた気配に、もしかしてと上擦りそうになる声を抑えてエステルは尋ね返した。
「誰、です?」
「近衛騎士ユーリ・ローウェルに御座います」
*続きは「Re:waltz. Compilation of Knight and Princess」で。