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75.シーツ

【ED後/下町の下宿にて/ユリエス/掌編】

 眩しさに夢の世界から目覚めた彼女は、まだ重い瞼をゆっくりと持ち上げた。
 カーテンの隙間から差し込んでいる朝日が顔に当たっていたらしい。もう朝なのだと、一度瞼を落としてから眠気を振り払うように完全に目を開く。
 肘を突きながらゆっくりと半身を起こした彼女は、周囲を見回してこの部屋の主の姿が無いことに気付て首を傾げた。
「……ユーリ?」
 もうどこかへ行ってしまったのだろうか、そう思っていたその時、彼女の耳に階段を上がる足音が聞こえてきた。徐々に近付いてきたその音は、部屋の前で止まる。
 扉がゆっくり開くと、片手に荷物を持った部屋の主が片足を踏み出しながら伏せ目がちの顔を上げて――そして目を瞠った。
 どうしたのだろう、と不思議に思いながら見ていた彼女に対して、部屋の主である黒髪の青年は、慌てて部屋に入って勢い良く扉を閉める。
「おはようございます、ユーリ。お買物に行ってたんです?」
「……ああ」
 青年が抱えている紙袋には店名が記されていた。見れば、いつか二人で行った市民街のパン屋のものだ。調理パンから菓子パンまで様々に取り揃えていて、値段はお手ごろ、しかも美味しいと評判で、ユーリとエステルも気に入っていた。
「ところで」
「はい?」
「その格好は、これを朝食じゃなくて昼食にして良いってこと?」
「はい……、っ!!?」
 何を言っているのだろうと自分の姿を見下ろして、一糸纏わぬ素肌だと理解して慌ててシーツを引き上げた。今の今まで朝日の中に自分の体を曝していたのだという事実に、エステルは羞恥に顔を赤く染める。
 だから部屋に入った時のあの反応だったのだ、と思い当たった彼女はシーツから顔を覗かせながら恨めしげに呟いた。
「どうして、言ってくれないんです……」
「そりゃ、人に見られる心配がなけりゃ、オレ自身は見ててこれほど楽しいもんはないし」
「わたしは恥ずかしいですっ」
「夜に全部見たけど」
「そ、それはそれ、です!」
 ぷい、と顔を背ければ、枕元にはきちんと服が畳まれ置いてある。昨夜、次々と寝台の下に落とされていったそれらを、拾い上げて畳んであろう青年はくつくつと喉を鳴らして笑いながら紙袋をテーブルに置く。
「下の厨房借りてコーヒー淹れてくるから、それまでに支度、整えて」
「わ、分かりました」
「ああ、その前に」
 踵を返す前に寝台に歩み寄ったユーリは、何だろうと見上げるエステルの額に唇を落とした。
「おはよう、エステル」
「おはようございます、ユーリ」
「…………ほんとはこっちを食っちまいたいけど、まあ、勘弁しとく」
「ユ、ユーリっ!」
「ははっ、んじゃさっさと着替えとけよ」
 言い置いて今度こそ部屋を出て行った青年が扉を閉めると、残された少女は頬を染めたままその身に纏ったシーツを剥ぎ取るのだった。


*なんちゃって同居シリーズの「60.夜」の数日後。たぶん、あの夜から毎夜……(ぇ