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1.見飽きた顔が愛おしい【幼馴染の恋五題】

【現代パラレル/フレリタ/掌編】

*この掌編は以下の設定とお題を用いて書いた、実験的な作品です。
・現代パラレルで、フレンとリタは幼馴染設定。
・フレンが引っ越した先の家の隣に、リタが住んでいた。
・年齢設定はゲーム版準拠。
・フレンが大学に入って、学生マンションに一人暮らし(ユーリも同じマンション)に行ってすぐ、リタは海外へ。
・フレンの両親存命(父の名前は映画から)。リタは父のみ存命で、父は現在海外の研究所に勤務。フレンの父とリタの父は同じ大学の先輩後輩で、その関係で空いた家はフレンの父が管理していた。
・使用お題「幼馴染の恋五題」配布サイト:リライト

(暑いな……)
 額に滲み、米神を伝い落ちてきた汗を手の甲で拭うと、彼は照りつける日差しをその手で遮りながら前方に目を凝らした。
 元々、大学に入る時には奨学金を得て親の負担にならないようにするつもりだった。幸いにして、成績優秀者の為の奨学金制度を利用することが出来た彼は、受給資格者へ優先的に融通される学生マンションに入居して大学生活を送ることに決めた。キャンパスから徒歩十分という恵まれ場所にある為、実家から通えば二時間近くかかる通学時間をその分、勉学へ当てることが出来るから、と。
 事実そうして良かった、とフレンは思っている。学生の為に、月二回の日曜以外は土日も利用出来る図書館や、たびたび開催される日曜講座は確かに青年の糧となっているからだ。
 フレンのその思いを尊重して、両親は長い休みでも実家への帰省を強制するわけでもなく彼の自由にさせてくれた。フレンもまた、両親の思いを感じ取り、休みの間まるまるとは行かないまでも数日単位での帰省はしていた。
 しかし今年の夏は、夏期休暇が開始すると同時に帰省し、このまま休暇が明ける九月中旬頃まで実家暮らしとなる。
(贅沢は言えないからな……)
 学生マンションの外装から内装まで、夏期休暇いっぱい利用して改装工事が行われるのだ。
 実家に帰省出来る者は帰省、事情があってそれが叶わない場合には用意されたマンスリーマンション。その費用は全額、奨学金を運営する団体が負担してくれるということで、フレンの親友であるユーリは助かったと漏らしていた。
 当然、帰れない距離では無い場所に実家があるフレンは、良い機会だからとこの夏を実家で過ごすことに決め、今朝早くに倉庫送りにした荷物以外の手荷物を持って、両親の暮らす家がある町へ帰ってきたのだった。
 門を開ける前に、ふと隣家の方へ目を向けたフレン。そして再びこめかみへと落ちてきた汗に気づき、先ほどと同じように拭いながら苦笑する。
 この三年間、実家に帰る度に同じことを繰り返している。本格的に家を出る前、青年が高校を卒業する頃には、ユーリとは違う幼馴染が住んでいた隣家。
 彼が実家を出て少し後に、国外の研究所に招待された父と共に外国へ行ってしまったと、親子が出国した後に母から知らされた時には少なからずショックを受けたものだ。
(元気だろうか)
 天才少女と知る人ぞ知る存在だった幼馴染は、人と接するよりも難解な数式を解くことを好む難しい性格をしていて、フレン達一家が越してきて父の縁で知り合った後も、かなりの時間普通に話すことは出来なかった。
 けれど少しずつ少しずつ距離は近づき、彼女が形式上通っていた小学校の高学年になる頃には、彼女の父に次いで良く話をする一人となっていて。
 だから、メールの一言でも良い、彼女自身から国外へ行くことを教えて欲しかったのだ。
 取りあえず、同じ大学の先輩後輩である父同士の縁があるので、知ろうと思えば消息がすぐ分かる点は安心しているが、それがあるからどうも尋ねることに躊躇いがある。
 フレンは小さく息を吐いて、それからキーケースの中から久しぶりに使う自宅の鍵を選び取り、扉を開けて玄関に足を踏み入れた。
「ただいま」
 居間で冷房をつけているのだろう、玄関もほんのりと冷えていて、炎天下の中を十分近く歩いて来たフレンはほっとしたように息を吐く。
 おかえりなさい、ちょっと待ってね。台所の方から響いた母の声に小さく笑った所で、彼は荷物を置いて靴を脱ごうと視線を足下に落とした。
 そこには明らかに女性用と思われるサンダルが一足。けれど大きさからして母の物では無い、来客中なのだろうかと思った所にパタパタと近づいて来たスリッパを履いた足音。
「おかえり」
 当たり前のように掛けられた言葉に驚きながら顔を上げたフレンは、そこに立っている人物を見て更に目を見開いた。
「……おかえり、って言ったんだけど?」
 僅かに眉を寄せ、声を低くして言った彼女――三年ぶりに見る幼馴染の少女に、フレンは、ははっ、と小さく笑う。
「それなら、僕にも言う権利はあるだろう?」
 小学校に上がる小さな頃から、卒業するまで毎日見てきた少女。勿論その間にも段々と成長して顔つきも変わって行ったことを知っているし、特に思春期の少女の三年は長かったのだと、今し方色々な意味で驚いていた中でも思った所だけれど。
 それでも、家族とは違う意味で見飽きた顔でもあったのに。
「それもそうね」
 相変わらずの口調、相変わらずの表情。
 三年の空白がそれだけで一気に埋まったかのような感覚と、そしてそれまで抱いたことの無かった思いがフレンの中に生まれた。
「おかえり。でもってただいま、フレン」
「うん。おかえり、そしてただいま、リタ」
 微笑しながら言った青年に、少女は満足そうに笑みを返して。
 見飽きた顔が愛おしい、ついさっき生まれたばかりの思いに無自覚のまま更にその言葉を加えたフレンは、早く来なさいよ、と踵を返して先に居間に戻った少女を追う為に靴を脱いで家に上がった。


*原稿の合間に衝動的に書き上がった一作。このお題を見た時にふっと浮かんだのが幼馴染なフレリタだったんです。取り合えずお試しで載せてみました。(もしかしたら知らない内に消えてるかも)
*フレン絡みの推奨カプ第一位はフレジュなのですが、フレリタも結構好きです。

78.屋上

【DLC「学園編」で学園パラレル/ユリエス/掌編】



 四時限目が終了した、それを知らせるチャイムが高らかに響いた。
 うららかな春の陽気。
 陽に当たり続けていればさすがに暑くなってくるものの、時折そよぐ風は鬱陶しく無い程度の涼をもたらしてくれる。もうあと二週間も経てば、梅雨の季節に近づく影響で段々と不快なじめじめに悩まされるようになるのだろうが、今はその気配は無い。
(今が一番良い時期、だな)
 今年は四月に入ってからも寒暖の差が激しく、何十年かぶりに春にみぞれまで降る、という日まであった。それは四月の下旬に入ってからも収まることは無かったが、GWしょっぱなにある平日の今日は、それまでが嘘のように春らしい――ともすれば初夏の陽気と言っても良い気温である。
 さて、と彼は耳が拾い上げた音に気づいてくるりと振り向いた。
 ぱたぱたと軽い足取りだと分かるその足音の持ち主が彼の待ち人だ。
 あと五歩、四歩、三歩、二歩、一歩――。
 ギィ、と金属が軋むような音を立てて屋上に出る唯一の扉が開く。
「ユーリ先輩!?」
「よ、遅かったな、エステル」
「……今日こそはわたしの方が早いと思ったのに。先輩、早過ぎます! 第一、まだチャイムが鳴って何分も経ってないです」
 小さく眉根を寄せて、心なしか疑惑の視線を向ける少女に、青年――ユーリはひょいと肩を竦めた。
「今日の四限は自習だったの」
「本当です?」
「何だったら後でフレンに聞いても良いぜ? おっさんが他のクラスに迷惑かけないなら、教室に居なくて良いっつーから、ぶらぶらしてたの」
「そ、そうなんです?」
「まあ、少しは思う所もあって進路指導室に顔出してからだけど」
 悪いことしてないのに疑うなんてなー、とユーリはエステルから顔を背けながら言う。
「あの、ごめんなさいユーリ先輩」
 沈んだ声に、ちらりと視線を向けた青年は沈痛な面もちで俯いている少女を見つけて苦笑を零す。
「……GWのどっか、空いてる?」
「はい?」
「スイーツ博覧会、ってのがやってるんだけど、男一人じゃさすがに行き難いと思ってたんだよな」
 ユーリの言葉に、彼の言いたいことに気づいたのか、少女は顔を上げてパッと笑顔になった。
「空いてますっ!」
「よし、さっきのは水に流す。んじゃ、先に昼メシ食って、いつにするか決めるとしようぜ」
「はい、ユーリ先輩」
「ああ、もう一つ」
「はい?」
「出かける時は、先輩はナシな」
「え……?」
「ほら、メシ食うぞ」
 昇降口の日陰になる場所へと歩きだしたユーリに、エステルは口の中で小さく青年の名を紡いでから彼の後を追って歩き出した。


*4月以来の365題をストックから。お題で学園パラレルは初めてです。ちなみに書いたのが5月終わり頃なので、そういう季節感で書いてます。

77.サボリ決定

【「waltz.」設定/「as you wish」の直前/掌編】

(メシの後に座学……しかも宮廷儀礼に関することなんて、何の拷問だ)
 込み上げてきた欠伸をかみ殺しながら内心で愚痴を零した黒髪の青年は、そう言えばと次の予定を思い出して眉根を寄せた。
(……げ、次は舞踊かよ)
 騎士団に女性が居ないわけでは無いが、それでも男女比は九対一くらいという圧倒的男性社会だ。
 当然、本来なら男女で組むべき舞踊の練習も、男同士で組まなければならない。必然的に片方は女性のパートを踊ることになるが、本来どうして習うのかと言えば、騎士として女性をエスコートして夜会などで相手を務める可能性があるからなので、勿論男性のパートも覚えることとなり――両方のパートを覚える必要がある。
 一度やって両方のパートを簡単に覚えてしまった青年は、舞踊の教官から女性役をやるよう命じられることが多い。恐らくは髪が長く、細身である(本人は認めないが、どちらかと言えば女顔である)ということもあるのだろうが、本人にしてみればたまったものではないのだ。
 本格的に組んで練習したのはこれまでに二回。
(二度あることは三度ある、なんて冗談じゃねぇ。サボリ決定、だな)
 昼寝でもするか、と思いながらどこなら見つからないかと考え始めた青年。
 睡魔との闘いを繰り広げた座学の後、次に控える舞踊の時間をサボるべく彼は一人抜け出した。
 そして、都合の良さそうな枝で午睡をと木に登ってすぐ、近くの窓の向こうに、自らはサボった舞踊でやるはずだったワルツをたどたどしく踊る少女を見つけることになる。

*シリーズ「waltz.」の二人の出会いの直前。

76.花

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ22歳・エステル19歳/掌編】

 四月初旬、某日九時過ぎ。
 エステルは朝一番に駅前のフラワーショップに行き、予約していた花籠を受け取ってある場所へと向かった。
 住宅街にほど近い、二車線の道路に面したそこは、平日休日を問わずそれなりに人通りがある立地である。
 小さな駐輪スペースも確保された二階建ての店舗――ウンディーネの伝手で見つけたそこが、今日から青年の『城』だ。
「えぇと……。こっち、です?」
 携帯を開き、事前に青年から知らされていた住所と近くの電柱の番地とを見比べる。もう少し先らしい、とそのまま歩き続けるとすぐに目的の建物は見つかった。
 白い壁、前面は大きくガラス窓が設けられており、店内のショーケースもカフェスペースも良く見える。木製のドアの前にはまだ開店前だからか「CLOSED」の札がかかっているが、それもあと一時間も経たないうちに「OPEN」へと変わることだろう。
 そして、ドアの両脇には良く開店祝いに店の前に置かれるような、フラワースタンドがあった。
「ディーネと、フレン、からです……」
 一人はこの店の主である青年の親代わりであり、この店の開店に当たって色々と手助けをしたというウンディーネ。もう一人は青年の幼馴染であり親友の、フレン。
 ある意味当然と言えば当然だが、しかし二人が贈った花と自らの持つ花籠を見比べると、どうにも気が沈んでしまう。
「何やってんの?」
「ユーリ……!」
 チリン、鳴ったのはドアに取り付けられたベルだろう。まだ「CLOSED」の札が掛かったそこを開いて顔を出したのは、正に開店準備で忙しいはずのユーリだった。
「開けておくから入ってきて良いって言ってたのに、入口前で立ち止まったまんまだし。何かあった?」
「えぇと…………、ディーネとフレンが贈った花を見て、ちょっと落ち込んでました」
 これ、と差し出した花篭。
「わざわざ買ってきてくれたのか」
 花篭に差し込まれたメッセージカードには「開店おめでとうございます」とエステルの筆跡で記されている。
「あの、小さいですけど……」
「大きさは問題じゃないって。あんたはこれに、ちゃんと祝いの気持ちを込めてくれたんだろ?」
「はい! ぎゅうぎゅうに!」
 その様子にくつり、喉を鳴らして笑ったユーリは、扉を大きく開いてエステルを店内に招き入れると、改めて受け取った花篭をショーケースの一番目立つ場所に置いた。
「ありがとな」
「そ、そこで良いんです?」
「ここが良いの。多分後で必ず来るであろう奴らに見せびらかす」
 ディーネとか、都合つけて来るとか言ってたフレンとか、カロル先生とか、リタとか、おっさんとか。
 指折り数えていくユーリに小さく笑ったエステルは、すぅ、と甘い匂いの漂う店内の空気を吸い込んで口を開いた。
「改めて、今日はおめでとうございます、ユーリ」
「……ああ。ようこそ、パティスリー・ヴェスパーへ。後ほど一人目のお客様に特別にご用意致しましたスイーツをお披露目させて頂きます」
 店主らしく丁寧に挨拶を返したユーリは、どこか照れくさそうに笑みながら、第一号の客人を一足先にカフェスペースへと案内するのだった。


*現代パラレルより、お店開店の日。

75.シーツ

【ED後/下町の下宿にて/ユリエス/掌編】

 眩しさに夢の世界から目覚めた彼女は、まだ重い瞼をゆっくりと持ち上げた。
 カーテンの隙間から差し込んでいる朝日が顔に当たっていたらしい。もう朝なのだと、一度瞼を落としてから眠気を振り払うように完全に目を開く。
 肘を突きながらゆっくりと半身を起こした彼女は、周囲を見回してこの部屋の主の姿が無いことに気付て首を傾げた。
「……ユーリ?」
 もうどこかへ行ってしまったのだろうか、そう思っていたその時、彼女の耳に階段を上がる足音が聞こえてきた。徐々に近付いてきたその音は、部屋の前で止まる。
 扉がゆっくり開くと、片手に荷物を持った部屋の主が片足を踏み出しながら伏せ目がちの顔を上げて――そして目を瞠った。
 どうしたのだろう、と不思議に思いながら見ていた彼女に対して、部屋の主である黒髪の青年は、慌てて部屋に入って勢い良く扉を閉める。
「おはようございます、ユーリ。お買物に行ってたんです?」
「……ああ」
 青年が抱えている紙袋には店名が記されていた。見れば、いつか二人で行った市民街のパン屋のものだ。調理パンから菓子パンまで様々に取り揃えていて、値段はお手ごろ、しかも美味しいと評判で、ユーリとエステルも気に入っていた。
「ところで」
「はい?」
「その格好は、これを朝食じゃなくて昼食にして良いってこと?」
「はい……、っ!!?」
 何を言っているのだろうと自分の姿を見下ろして、一糸纏わぬ素肌だと理解して慌ててシーツを引き上げた。今の今まで朝日の中に自分の体を曝していたのだという事実に、エステルは羞恥に顔を赤く染める。
 だから部屋に入った時のあの反応だったのだ、と思い当たった彼女はシーツから顔を覗かせながら恨めしげに呟いた。
「どうして、言ってくれないんです……」
「そりゃ、人に見られる心配がなけりゃ、オレ自身は見ててこれほど楽しいもんはないし」
「わたしは恥ずかしいですっ」
「夜に全部見たけど」
「そ、それはそれ、です!」
 ぷい、と顔を背ければ、枕元にはきちんと服が畳まれ置いてある。昨夜、次々と寝台の下に落とされていったそれらを、拾い上げて畳んであろう青年はくつくつと喉を鳴らして笑いながら紙袋をテーブルに置く。
「下の厨房借りてコーヒー淹れてくるから、それまでに支度、整えて」
「わ、分かりました」
「ああ、その前に」
 踵を返す前に寝台に歩み寄ったユーリは、何だろうと見上げるエステルの額に唇を落とした。
「おはよう、エステル」
「おはようございます、ユーリ」
「…………ほんとはこっちを食っちまいたいけど、まあ、勘弁しとく」
「ユ、ユーリっ!」
「ははっ、んじゃさっさと着替えとけよ」
 言い置いて今度こそ部屋を出て行った青年が扉を閉めると、残された少女は頬を染めたままその身に纏ったシーツを剥ぎ取るのだった。


*なんちゃって同居シリーズの「60.夜」の数日後。たぶん、あの夜から毎夜……(ぇ

74.パジャマ

【ED後/下町の下宿にて/ユリエス/掌編】

「……エステル」
「はい。何です、ユーリ?」
 振り向いて小首を傾げた彼女が身に纏うのは、白のネグリジェ。
「普通のパジャマは無いのか」
「……? 普通ですよ?」
 これを普通と言わないで何を普通と言うのだろうか、そんな表情で小首を傾げたままユーリを見つめるエステルに、青年は抑えきれない溜息を漏らした。
 旅をしていた頃はよく一行が同じ部屋に寝泊りした。だから夜着を纏う姿を見たことがないわけじゃない。
 しかし今、彼女がその身に纏うのは、その頃に着ていたものより、薄い、確実に。
(これでわざとじゃねぇって言うんだから、性質が悪いぜ……)
 白く薄い――しかも夜着とあってゆったりとした形状のそれは、元々白い肌すら透けて見えそうで、そしていつもよりその身体の稜線を鮮明に描き出すという、これを目の前にした青年にとって見れば拷問にも等しい姿を生み出している。
 しかも、未だに彼の相棒は帰宅していない。その気配すら感じられない。
 思わず、据え膳、という言葉が脳裏を過ぎる。
 確かいつか誰かが言っていた……、恐らくはレイヴンだろう、諺だ。
 青年はぐっと息を詰め、そしてゆっくりと吐き出す。
「ユーリ?」
「…………洗い変えも全部そういうの?」
「いいえ? これは先日、ジュディスがこんなのはどうかしら、ってくれたものです」
 可愛いし、折角なのでこれにしました。と、嬉しそうに笑みながら裾を摘み上げて見せたエステル。白い指先が摘み上げるひらりとした裾からさっと視線を逸らしたが、しっかりと目に焼き付いた白い足。
 ユーリはひくつく口元を自覚しながら、もしかしたら狙ってやったんじゃないだろうか、と贈り主のクリティアっ娘を内心で睨んだ
が、記憶の中ですら彼女はその微笑を崩さない。それが余計に腹立たしい。
「ここは城と違うから、夜は冷えるし、明日は違うのにしろよ」
「そうなんです? 分かりました。体調崩したら折角のお休みなのにもったいないですから」
 彼女の体調よりも自分の理性の為に言ったユーリだったが、しかしエステルは素直に頷く。
 安堵の溜息を漏らした彼は、さっさと眠るに限るとばかりに一つしかない寝台を指差した。
「ほら、寝ろ」
「はい」
 青年が促すままに寝台に腰掛けた彼女は、しかし小首を傾げて彼を見上げる。
「ユーリ?」
「何?」
「ユーリは寝ないんです?」
 足を上げて、壁際に寄った彼女が意図する所は、一緒に寝ろと、そういうことなのだろうか。
 一瞬、比喩でも何でも無く硬直したユーリは、絞り出すように答えた。
「………目が冴えてるから、まだ、いい。先に寝てろ」
「そうなんです? ……分かりました。おやすみなさい、ユーリ」
「……ああ、おやすみ」
 声を返して、静かに窓辺に歩み寄って腰掛けた彼は、やがて聞こえてきた安らかな寝息に、細く、深く、何度吐いたか分からない溜息を漏らす。
「……あの天然殿下、まさかこの状況を見越してたんじゃねぇだろうな。……喰うぞ、こら」
 顔に似合わず、腹に一物を持つ次期皇帝はきっと、あの微笑で「どうぞ召し上がれ」くらい言いそうだ、と容易に想像出来てしまい、揃いも揃って曲者ばかりの知人達が作り出したこの状況に、何の苦行だと小さくぼやくのだった。


*なんちゃって同居シリーズの「7.事情」のその夜。で、「57.眠れない」へ続くわけなのです。

73.前略

【ED後/「waltz.」設定・未来/エステル&息子/掌編】

※この話はユーリとエステルの結婚から数年後のお話であり、かつ二人のお子様というオリジナル設定のキャラクターも登場します。それでも宜しければ折りたたみの中(携帯の方はこの下)をご覧下さいませ。

※長男:アルクトゥス・ローウェル[Arctus](アルカ)4歳


『前略、先日は贈り物を有難うございました。二度目のこととは言え、準備には時間が掛かりそうだと少し溜息を吐きたい心境でしたので、とても有難く、そして助かりました』
 軽やかに紙面を走るペン先が綴るのは、心からの感謝を込めた礼。口元に微笑を浮かべながら言葉を記していく彼女に、その傍らで様子を見ていた少年は、不思議そうに問いかける。
「おかあさん、だれへのおてがみです?」
「下町の、箒星の女将さんです。テッドのお母様の」
「あ! このまえ、おとうさんがおくりものでもってきた、あかちゃんのふくやおしめをつくってくれたひと、です?」
「正解です。うふふ、アルカが生まれる前にも、同じように贈ってくださった方なんですよ」
 にっこりと笑みながら言った母の言葉に、少年――アルクトゥス・ローウェル、通称アルカはぱちぱちと瞳を瞬いた。
「ぼくのときにも?」
「はい。女将さんだけじゃなくて、ハンクスおじいさんや、下町の他の皆さんや……。ヨーデル小父様とフレンもいっぱいの贈り物を下さったんですよ」
 特にヨーデル小父様からの物は、いっぱいすぎて後で叱っちゃいました。
 くすくすと楽しそうに笑うエステル。
「……ぼく、ヨーデルおじさまとフレンおじさまと、テッドおにいさんにしか会ったこと無いです」
 少し寂しそうな呟きが聞こえて、笑い声が止まった。
「いつか、おとうさんとおかあさんのだいじなひとたちに、ぼくもあってみたいです」
「……そう、ですね。赤ちゃんが大きくなったら、一度、会いに行きましょう。ヨーデルやフレン、テッドは勿論、女将さんや、ハンクスおじいさんや、他の街にも居る人達にも」
「ほんとうですか?」
「ええ、本当です。二人でお父さんにお願いしましょう?」
「はい!」
 顔を見合わせて、くすくすと笑う母子。
「へぇ、どんな風にお願いしてくれるの?」
 そんな二人に楽しげな声が掛けられて、母子は弾かれたように振り向いた。
「おとうさん、おかえりなさい!」
「お帰りなさい、ユーリ」
「ただいま、エステル、アルカ」
 立ち上がろうとする妻を宥め、駆け寄ってきた息子を抱きとめて頭を撫でた後、背を屈めて女性の頬に唇を寄せたユーリ。そして、改めて二人に尋ねる。
「で、決まった?」
「ユーリは意地悪です」
「そう? どうせお願いされるなら、されて楽しい方がオレも嬉しいし」
「ええと、おとうさんがたのしいほう……。おかあさんのおてつだいとか、ですか?」
「普段からしてくれてるから、アルカはそれでいい。まだ待たせちまうけど、約束な」
「はい! やくそくです!」
 楽しげに息子と指きりをしたユーリは、さて、と椅子に掛けたままの妻を見下ろした。
「エステルは?」
「……やっぱり意地悪、です」
 む、としながらもゆっくりと立ち上がった彼女は、僅かに踵を上げて青年の頬に唇を寄せる。
「約束、ですよ」
「ん、了解」
 楽しそうに笑う父と、頬を淡く染める母。そんな両親を見比べて、近い未来に兄となる予定の少年は、結局父の言う楽しい方とはどういうことを言うのだろうか、と小首を傾げるのだった。

*「52.手紙」のその後のローウェル一家の様子。

72.本日は晴天ナリ

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ21歳・レイヴン35歳・カロル12歳/秋/掌編】


『マイクテスト、マイクテスト。本日は晴天ナリ、本日は晴天ナリ、本日は……』
 確かにその通りだよな、と青年は大きく広げられたブルーシートの上で空を仰ぎながら思う。
「はぁ……、何でおっさんがこんなことしてるんだろうねぇ」
 日曜のこんな時間に、と続いたぼやきに、視線を下した青年が言った。
「何で、ってそりゃ、依頼されたからだろ、おっさんが」
「うちの所長<ドン>とディーネ園長は昔からの知己だしねぇ。でも青年、うちは何でも屋じゃなくて探偵事務所なのよ?」
「そうなの? その割には探偵っつーより『何でも屋』の仕事の方が多いんじゃない」
「それはドンがどっかからか依頼を持ってくるからで……」
 はあ、と落ち込んだ様子の男に、青年は持ってきていた荷物に目をやって言う。
「別にいいけど、そうなったらこの鯖味噌はチビどもにやるか。あとジュディが持ってくる予定のは代わりにオレが食べるとして……」
「ひ、卑怯よ青年! ジュディスちゃんのお弁当は勿論非常に魅力的だけど、自分の料理の腕を盾にしておっさんの弱点突いて鯖味噌!?」
「盾にしたわけじゃないっての。依頼とは言え、早朝から場所取りやってくれてるんだし、昼飯くらいは好きなもんでも持ってってやるかって作ってきただけだし」
 言いながら、ぽんと一つ傍らに置いてある風呂敷包みを叩いたユーリ。
「あれ? ユーリに、レイヴンまで?」
 不思議そうな声が掛けられ、青年は視線を向けて手を上げた。
「よお、カロル先生」
「もしかしてディーネに頼まれて場所取り?」
「ああ。あと昼飯の一部担当な。おっさんはオレが来るまで校門の前に並んでる係」
「早朝五時からばっちりよ。青年が来てからは荷物持ちで、スタートダッシュは任せたけど」
 開門と同時に素晴らしいスピードで校庭に入り、短距離走のゴールが良く見え、かつ昼時には丁度木陰が出来るという絶好の位置に、ブルーシートを手際よく広げて場所を確保したのが遠目に見えた。
 との、レイヴンの解説に、カロルは僅かに乾いた笑いを浮かべる。
「だから最近、ディーネと色々話してたんだ……」
「ああ。良く見えて、しかも涼しい場所ってな。というわけだ、昼飯はジュディも作って来るし、ディーネは張り切って三脚用意してたし、期待してるぜカロル先生」
「おっさんもデジカメ係を仰せつかっちゃったしね~。良い場面撮ったら報酬に色付けてくれるって言質取ってるから、被写体には頑張ってもらわんと」
「……ユーリとジュディスのお昼ご飯は楽しみだけど、無茶言わないでよレイヴン」
 はあ、と一つ溜息を吐いた少年はもう行かなきゃと言って校舎へと向かって行った。残された青年と男は、しばらくその後姿を見送って溜息。
「仕事さえ無けりゃ、フレンの奴を是が非でも引っ張ってくるってのに」
「仕方ないっしょ。今の青年は学生さんなんだし」
「それもあるけど、結局あの園の出身者はどうあったって最終的にはディーネに敵わないんだよ」
「出身者じゃなくったって、右に同じー。おっさんは勿論、うちの所長もね」
 空を見上げて思い浮かべたのは、彼らが一番古い記憶から持ってきたとしても今とほぼ変わらない女性の微笑する姿。
『マイクテスト、マイクテスト。本日は晴天ナリ、本日は晴天ナリ……』
 軽いハウリングと共に再び響きだした音響テストの声に紛れ、二つの溜息が零れる。
『――本日は晴天ナリ、……以上』
 言葉に偽り無く晴れ渡った青空の下、二人の男達はまだ長い今日一日のことを思い、三度溜息を吐いた。

*そう言えばマイクテストでお馴染みの文言だよなー、と言うところから連想で。レイヴンの上司である所長は、勿論ドンです。

71.勝つ!

【ED後/「42.OOさま」のその後/パーティメンバー/コメディ寄り/掌編】

「……カロル先生、あれはオレの目には、どう見ても居残りしてるハズの三人組に見えるんだけど」
 飛び入りとして闘技場のバトルフィールドに現れた大小三人の姿。それを半眼で見つめたまま言ったユーリに、ギルド最年少の首領を務めるカロル少年も頷いた。
「エステティシャンはバイザーだよね。籠は見たまんまだし。ゴーグルはいいけど、なんでねこねこウェイターなんだろ」
 前者二人は顔を隠すことを目的に選んだ衣装と小道具故なのだろう。しかし後者一人は衣装のチョイスが謎だ。
「エステルがあの格好で、おじさまもあの様でしょう? ならいっそのこと仮装してしまえ、ってある意味一番目立つあの衣装を選んだのじゃない?」
 ジュディスが微笑をたたえたまま推測すると、なるほどと青年は頷く。
「確かに猫耳は目立つな」
「ワフ」
「…………納得するんだ」
 ユーリの反応に呆れたように息を吐いた少年に、クリティアっ娘は少し楽しそうに口を開いた。
「ところで、この様子だと対戦することになるんでしょうけれど、そうなった場合、作戦はどうするの?」
「外見はともかく、能力を考えたら厄介な組み合わせだからな……。強力な魔導士が一人、強力な治癒士でかなりの剣の使い手が一人、遠距離攻撃専門かと思いきや近距離も意外といけるのが一人、と」
「しかもおじさまのアレは詠唱時間無しの回復技でしょう? それも遠距離からパーティ全員に効果がある追尾型の。味方だと頼もしいけれど、敵に回すと厄介だわ」
「ああ……、贔屓のあるレイヴンの『愛』のこと」
 今はそうでもないが、旅を共にするようになった頃は女性優先で効果のある術技だったのだ。
「エステルは治癒も補助も攻撃も、三拍子揃ってる上に、近距離だとかなりの腕前の剣士にもなり得るし」
「向こうは回復役が二人いて、臨機応変に動けて、だものね」
「もっと警戒しなきゃなのは、オーバーリミッツからのリタのタイダル祭だけど。あれにハメられたら即終了決定だ」
「ど、どうしよう……」
 ジュディスのレイヴンに対する術技への評価も、ユーリのエステルへの評価も、客観的に見てそれが対峙しなければならない相手だった場合にはかなり警戒すべきものである。
 幾らそれが命のやり取りをする戦いでなくとも、やはり普段は自らの背中を預け共に戦う仲間なのだ、少なからず動揺するカロルの様子はおかしいものではない。
「決まってんだろ、首領」
「そうね、此処に立っているのだもの」
「ワン!」
 にやりと笑う青年、美しく微笑む女性、その二人に同意するように吠える隻眼の犬。
 表情は違うけれど、その笑みに含む意味は完全に一致している。
「そりゃ、二人が退くなんて思ってないけど」
「うふふ、さすが首領。だから、頑張りましょ?」
「オレも守護方陣で多少回復は出来るけど、カロル先生のスタンプの方が効果が高いからな、頼りにしてるぜ?」
「うう……、分かったよ。その代わり、ボクはあまり前に出ないから皆に頑張ってもらうからね」
 肩を落として言った少年に、ユーリは剣の柄を握り直しながら返す。
「了解。取り合えず、開始と同時に剛招ビートで攻撃力強化したら、猫娘にノックを打ち込んどいて。ジュディは月光でエステティシャンの邪魔な。ラピードはスピードでおっさんの邪魔。オレは猫娘を何とかするわ。カロル先生、後は回復補助中心にしつつ、猫娘とエステティシャンの魔術をノックで邪魔してくれ」
「了解」
「了解よ」
「ワフ、バウワウ!」
「んじゃ、作戦も決まったとこだし……。締めは首領に任す」
「うん。手強い相手だけど、こうなったらやれるところまでやろう!」
「ああ。こういう機会でもなきゃ、やり合わないし、これはこれで良かったな」
「そうね。ふふふ、楽しみだわ」
「……結局二人は戦えるのが楽しいんだろうけど」
「ワフ」
「と、とにかく……、ボク達が」
「そうだな、オレ達が」
「ええ、私達が」
「ワン!」
 顔を見合わせて、それから対峙する三人を見据えた彼らは声を合わせて宣言した。
『凛々の明星が勝つ!』


*「42.OOさま」の締めで触れた飛び入りの皆さんとの戦いの前のお話。こういうバカっぽい話もたまには。そして200人斬り(ハード)で実は一番楽勝だったカロル先生の高性能を思い出しながら書いてみました。

70.ナミダ

【本編第二部/IFの世界「endless world」設定/掌編】


※この掌編はIFの世界の「endless world」設定が前提となっています。この掌編につきましては、「38.デジャヴ」「63.フラッシュバック」の同設定掌編と違い、「endless world」のジュディス視点という形を取り入れている為、上記作品に準拠している描写中に死について連想させる表現があります。「endless world」の設定、世界観について、関連話を読了済の方にご覧頂くことを推奨しています。ご了承の上、ご覧ください。


 これ以上無いくらいに濃密なエアルが漂う場に、ヒトよりも感覚器官が発達している彼女は、眉をしかめながら槍の柄を床に突き、ともすれば崩れ落ちそうになる体を支えた。
 共にこの御剣の階梯まで来た仲間達もまた、エアルの濃さに顔を歪め、少女に打ちのめされた体を必死に起こしている。
 満身創痍ながらも何の助けも無く両足で立っているのは、もはや黒髪の青年のみ。
 その青年と、自由を奪われた操り人形となっている少女は、剣を手に対峙している。

 ――そして。

 紡がれる光の力。
 一瞬にして収束、弾けるそれに、エアルを纏って防御する姿。
 濃いエアルが仇となったのか、一瞬の隙が生じた。
 駆け抜ける姿。
 重なる姿。
 青年の背中を突き抜けて見える白銀の切っ先。
 重たげに持ち上げられた手が飾る花の髪飾り。
 手から滑り落ちる宙の戒典、響く金属音。
 細い腰に回された腕が、ゆっくりと滑り落ち、力を失くして重なる少女にもたれる姿。
 上がる慟哭。
 飽和するエアルの収束――、


 風に歌うような鳴き声に、彼女はふと視線を上げた。
「……バウル」
 ヘリオードから離れた深い森の向こうの、人が足を踏み入れない平地。鎧兜を手にしたまま雨の中に立ち尽くしていた彼女は、傍らの温もりに手を伸ばした。
 長い、それは長い、けれど一瞬の白昼夢。
 現れては消える泡沫のように、同じようで違うそれが繰り返される、そんな現実のような夢。
 けれどそれなら、何故、こんなにも胸が痛むのだろう。
 瞬きの間にも零れ落ちていく「夢」に、体の一部が奪われたような喪失感を覚える。
 もはや残るのは、残滓と呼ぶにも少なすぎる欠片だけ。
「あの、二人、ね」
 これまでにも邂逅してきた人間だった。
 今回違うのは、初めて真正面から見据えたことだろう。
 いつの間にかあった「欠片」が、欠片を呼び起こし、彼女を白昼夢へと誘った。
 何度も、何度も、何度も……繰り返されてきた、終わりと始まりと永遠の輪の一端。
 しとしとと降り注ぐ雨が、彼女の長い睫に落ちて、弾ける。
「ごめんなさいね、いつまでも。……行きましょう」
 軽く撫で、兜を被る前に水滴を振り払うように頭を振った彼女。
 けれど、冷たい雨に紛れるようにしながら頬に作り出された、温もりを伴った一筋の道は消えることはなく。ただ、それを作り出したナミダは世界に落ち、僅かな「欠片」をその懐に。

 ――それはいつか、くりかえすせかいをこわすそのかぎとならん。


*今まではユーリとエステルばかりでしたが、他の人物視点でも。

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