【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ21歳・エステル18歳/7月5日/掌編】
「見てください、ユーリ」
「ん? ……ありゃ笹舟か?」
日曜の夕方、趣味と実益と勉強を兼ねたスイーツ店巡りの帰り道。エステルの家に向かって歩いていた二人は、その途中にある川沿いの緑道に差し掛かった所で足を止めた。
その原因となった声を発した少女は、危険防止の欄干の下に静かに流れる小川のある場所を指差している。
そこに水面をすべるように浮いている緑色を見つけたユーリは、
それが笹船であることに気づいて瞳を瞬いた。
「明後日は七夕ですから、近所の子供が作ったものかも、です」
「ああ、なるほどな。ってことは、明日辺りに助っ人のお呼びが掛かる可能性が高いか」
「助っ人、です?」
小首を傾げたエステルに、ユーリはああと頷いた。
「オレが養護施設の育ちってのは話したことがあったよな?」
「はい。小さい頃にご両親を亡くされて、そのご友人だった方に引き取られて。その方の運営するノードポリカこどもの園で育った……です?」
「そう。そこは園長の方針で、とにかく積極的に年中行事をやるんだ。だから七夕前は笹飾りとか短冊の準備、笹の用意に飾りつけ。まあとにかく器用な奴とか年長は色々前準備に駆り出されるんだが、OBのオレも例外じゃなくてな。何せ今、週に数回手伝いって名のバイトさせてもらってる身でもあるし」
肩を竦めながら答えたユーリに、エステルはくすりと笑って言う。
「でもそれは、ユーリが頼りにされているからじゃないんです?」
「どうだかな。高い所に手が届くって良いわね、なんて古株の世話役に言われたことはあるけど。チビどもは遠慮のえの字も無く飛び掛るわよじ登るわ……オレはマジックハンドでもジャングルジムでもないっての」
疲れたように吐息を漏らした青年の言葉は、けれど心底嫌がっているでもないことが良く分かり、少女はくすくすと楽しそうに笑った。
「わたしは少し羨ましいです。小父様も小母様もヨーデルも忙しいですから、小さい頃と違ってそういう行事は中々出来なくて。今はお正月とクリスマス、ひなまつり、くらいでしょうか」
「ふぅん。…………そんじゃ、体験しに来る?」
「はい?」
「オレは間違いなく声掛かるだろうし、煩いのが嫌でなければ、だけど。七夕」
「……いいんです?」
「夜だから家の人の了承を得てから、だけど」
「っ、はい! お願いします、ユーリ!」
頬を好調させて笑顔で返事をした少女の様子に、一つ笑った青年は、思い当たったことに首を傾げながら呟く。
「……となると、大事な娘さんを連れ出す身としては、一度あんたの保護者に挨拶しとくべきか?」
「え!? あ、挨拶、です?」
「そう。じゃなくても、最近休日には良くオレに付き合ってもらってるんだし。エステルの言う小父さんと小母さん、この時間でもどっちか居る?」
「きょ、今日なら二人とも居ますけど、でも」
「安心しとけ。これでも社会人経験有りだから、きちんとすべき所ではそれなりに出来る」
「そうじゃなくて、です、あの……!」
「何?」
「……も、いいです」
言葉が見つからず、頬を染めたまま諦めの言葉を紡いだ少女に、青年は気にした様子も無く一つ頷いてから先を促し歩き出した。
そんな二人を余所に、話の発端となった笹舟は、時折揺れながらも静かな川を流れて行く。
*流れるって川かなー、でもこの暑い中サクラも何だし、そう言えばもうすぐ七月、七月と言えば七夕だなー、という連想ゲームで。


