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18.自慢のコレクション

【本編中/第三部終盤/ユリエス/掌編】


「何書いてるんだ?」
「あ、ユーリ。見てください、大分埋まりました!」
 最終決戦に向けて戦力強化を目的にバウルの力を借りて世界を巡っていた一行は、休息と補給の為にハルルへと立ち寄っていた。ほぼ一日の自由な時間は久し振りのことであり、仲間達は各々好きなように過ごしているようだ。
 ユーリは宿に取った部屋で剣やら防具の手入れをしていたが、ふと空腹感を覚えて作業を中断して部屋を出た。他の部屋を見ても空き室で、宿の主人に聞いてみればそれぞれから昼食は要らないと断りを受けているとのことだった。ただ、その中にエステルの名が無かったので、どうせなら外で摘めるものをと頼んで作ってもらったそれを持って探しに出て――そしてハルルの樹の下で座り込んで熱心に何かを書き付けている少女を見つけたのだった。
 隣に腰を下ろして見てみれば、それはアイテム図鑑。装丁もそれなりに立派で分厚いそれが、手に入れた当初は実はほぼ真っ白だったことを知るユーリは、感心したように声を漏らした。
「へえ、確かに随分埋まったな」
「はい。この旅で、色々な物を手に入れましたから」
 武器も、防具も、道具も、素材も、それ以外の貴重な物も。一つ一つに大なり小なり思い出があり、これを見返すとその時のことを思い出すのだと少女は微笑みを湛えながら語る。
「世界一周どころか、数周はしてるし」
「ふふ。数ヶ月前には考えもしなかったことです」
「だな」
「もう手放してしまった物もありますけど、此処にちゃんと記録は残ってますから。それも自慢のコレクションの一つです」
 言って、ぱたりと図鑑を閉じた少女に、包みが差し出された。
「ユーリ?」
「まだ昼飯食ってないんじゃないの? 宿の女将さんに包んでもらったサンドウィッチ」
「あ、そうでした」
 途端、くぅ、と小さな音が響き、一瞬の静寂の後に青年の堪え切れなかった笑い声が響きだす。
「ユーリ……!」
「くくっ、わ、悪い、いや、分かっちゃいたけど、このタイミングはな、さすがエステル」
「……ユーリは意地悪です」
 ぷい、と顔を背けながら開いた包みの中のサンドウィッチを手にぱくりとかぶりつく。レタスとハムと言う定番の素朴な味わいのそれは、空腹だった彼女には何よりの美味だったらしい、途端緩んだ頬に、それを注視していた青年の笑いは続き……、少女がお仕置きです、と昼食の包みの中からデザートを取り上げるまで止まることは無かった、らしい。


*現実には頑張ってるけどまだ未コンプなアイテム図鑑。

17.泣いて泣いて泣いて

【本編中/ザウデ不落宮/エステル寄り/掌編】


 巨大な魔核が落ち、その衝撃で砕けた床から砂煙が上がる。
 その最中、はぐれてしまった長身の青年を探し、皆が薄目で周囲に視線をはしらせた。
「っ、ユーリ……、どこです……?」
 エステルの声に応えるかのように、遠く言葉として届かない彼の青年の声が彼女の耳に届く。
 そして、彼女は見た。
 少女につられるようにして視線を向けた者も。
 何かの気紛れであるかのように僅かに途切れた煙幕。その向こう側で今、正に起こりつつあったその光景。
 遮るものが何も無い、ザウデ不落宮のその淵から投げ出されるその姿。あまりの衝撃に瞬きすら出来ず、ゆっくりとゆっくりと、瞳に焼きつくように鮮烈に、鮮烈に。
 そして、消える。
「――――……!」
 あまりの衝撃に声すら出ず、ただ音になり損ねた空気が漏れた。信じたくない心が、つい数瞬前に見た映像に否定される。
 ざあっ、と音すら聞こえそうな勢いで引いていく血の気。
 力が抜け落ち、崩れ落ちかけた少女の体が傍に立っていた彼女の親友によって支えられ、それを助けるように弓をしまった男が動いた。
「エステル、しっかりして!」
「嬢ちゃん?」
 あまりにも青白い顔を見てリタとレイヴンが声を掛けるが、呆然とある一点を見つめたままの彼女は応えない。
 代わりに、次々と溢れ、零れた涙が頬を伝い落ちていく。
「ユーリ……」
 掠れ、震えた声で青年の名を呼ぼうとも、答える人は、居ない。
 そして慟哭が蒼天を貫き、駆けつけて来た青年の親友と付き従う小さな魔導士は、いつも彼等の中心で不敵に笑む青年が居ない事実と、その身に起こった事故を知るのだった。


*第二部終盤のあの場面を、管理人的妄想で。

16.気配

【本編中/カプワ・トリム後~カルボクラム前/ユーリ独白/掌編】


 夜中にふと目覚めた。不寝番をしていたラピードが頭を上げるのに気付き、半身を起こして相棒の頭を撫でる青年。
 周囲を見回せば焚き火の周りに見える大小三つの塊。
(分かんねぇもんだぜ……)
 盗まれた水道魔導器の魔核を取り戻す為に帝都を出た時は、城の牢屋から抜け出す途中に出会ったフレンを追いかけなければという少女と、己の相棒だけだった。
 それが今や、奇妙な縁で更に二人増え、結界の外に出たばかりか大陸まで渡っている。
 下町に居た頃は、日中は何かしら言いつけられた用事で動いていて、けれど夜には下宿先の部屋に帰って一人で過ごして。だからこそ青年は、朝も昼も夜も、一日を通してどころか日を跨いでまでも共にある気配というものに慣れなかった。
 おはようと言い、おやすみと言い、そして夜を越えて新しい朝を迎えると再び繰り返される挨拶。
 慣れないと言いながら気付いているのだ、日々少しずつそれに違和感を感じなくなっていく自分に。
 相棒のように、共に在るのが当たり前のようになっていく気配に。
「……おかしなもんだよな」
 遠くに聞こえる虫の音か、或いは近くの焚き火の爆ぜる音か、どちらにせよ吐息よりも小さな声が零れ落ちる。それを耳に拾った青い毛並みの相棒は耳をピクリと動かした後に同意するように尾を一振りした。
 彼の当惑が確固たるものとなり、それをその身をもって思い知ることになるのは、この時から更に数ヶ月後の、暗い森の中となる。


*実は「8.名前を呼んで」の前あたり。問答無用の超掌編。

15.上を向いて

【ED後/友達以上恋人未満/掌編】

 上を向いてさっと視線をはしらせる。見上げた先は晴れ渡った青空なので、目に映るのは透き通るような青と、そこに浮かぶ雲の白。
 それ以外の色が無いことに、彼女は残念に思い、そしてそう思うまでに「日常」となっていたあの旅を懐かしむのだった。
 会えないことは解っていた。彼女が足りないと思った色の持ち主は、ギルドの仕事で仲間と共に帝都を出ているのだ。出発する前に、戻ってくるのは恐らく二ヶ月程先になるだろうと聞いていた。まだ、その二ヶ月まで半月もある。
 こんな時、自分がただの娘であったなら、と思ってしまう。そうすれば何の躊躇いも無く共に行く事が出来るのではないか、と。
 けれど同時に、もしそうだったなら、今此処で悩んでいる自分は居ないのだということも分かっている。皇族の姫である、エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインであったからこそ、この気持ちを持つ自分が此処に居るのだ。
 それに、副帝となることを決めたのは彼女自身の意思だ。普通なら一生帝都から出ることも無かった立場の彼女が、旅を終えた後も世界を巡る権利を得たのは副帝として次期皇帝の目となり耳となる役があるからで、寧ろ渡りに船。だからこそ視察では無い時の仕事を疎かにするわけにはいかない。
 一つ吐息を漏らして首の角度はそのままに瞼を閉ざした少女。二ヶ月の間に埃が溜まってもなんだ、と彼からしてみれば冗談半分だったのかもしれない、鍵を渡されて、部屋の主が帰って来るまで半月もあるのについ足を向けてしまった。
「いけません、頑張りますって言ったのはわたしなのに」
 見送ったその日、帝都で自分にしか出来ない仕事を頑張るとそう宣言したのだ。
 どれくらいそうしていただろうか、しばらくそのまま佇んでいた少女はやがてぐっ、と軽く閉ざしただけの瞼に力を入れてから開いた。白く染まった視界。ぼんやりと、だがやがてやんわりと青を取り戻していく中、視界の端に捉えたその「色」に、一気に目を見開いた。
「っ……、ユー……!?」
「頑張り過ぎるな、って言わなかったっけ、オレ?」
「ど、……して。まだ……」
「半月もあるって?」
 言葉が出なかったのか、頷くことで返事をした少女に、今まで彼女に足りないと思われていた「色」を持つ青年は瞳を眇めて口元を持ち上げる。
「仕事、思った以上に早く終わって、最初はどうせならぶらぶらして帰るかと思ってた」
「……はい」
「でも何となく、フィエルティアから空見上げて。何か、足んないって思ったら……。戻ることしか浮かばなかったって言うか」
 で、戻って来た。
 開けた窓の外から聞こえてくる街の喧騒にすら掻き消されそうな小さな声で。
 告げた青年は、込み上げたものを堪えようと口元を手で抑えた少女を、己の腕の中へと引き寄せた。


*EDから2~3ヶ月以内くらい。シリーズ外で妄想してみた。

14.天体

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ21歳・エステル18歳・夏休み/掌編】

「よし、長袖の上着に長ズボン、スニーカー、格好はOKだな。虫除けスプレーは?」
「持って来ました。今した方が良いです?」
「それは着いてからで良い。んじゃ、行くか」
 お子様達がお待ちかねだ、とワンボックス車を親指の先で示した青年につられて視線を向けたエステルは、ふと笑った。
「ゲストとして加えてもらったんです、お待たせしてしまっては駄目ですね」
 カロルを始めとした園の子供達数人の他、付き添いのウンディーネと手伝いのジュディス、そしてゲストとして招かれたリタとエステル。ユーリは運転手として助っ人に駆り出された。
 今日は園から車で一時間ほど離れた郊外の公園で天体観測をするのだ。夏休みの課題や自由研究の対策で、どうせなら都会の真ん中より星が見える所で、と。
 陽が落ちてからの出発で、抜け道と高速を使い分けていつも夕食をとる時間帯に目的地に到着した。規模の大きい公園ということでそれなりの広さの駐車場も併設されており、取り合えず車を停めた後は車内で夕食となった。
 腹を満たした後は、車外に出て互いにしっかり虫除けスプレーをかけ、荷物を持って公園内へ。事前に調べていたというウンディーネが皆を案内したのは、芝生の広がるとても広い広場。
「ユーリ、出来たよ!」
「どれ? ……さすがカロル先生、ばっちり」
 説明書を見ながらとは言え、きちんと望遠鏡を設置したカロルを褒めると、少年は目を輝かせる。
「ほんと? じゃあもう観ていいかな?」
「いいけど、もう一つが準備出来るまで取り合えず一人五分な」
 お前らも良いな、と他の子供達に念を押せば良い子の返事が返ってくる。もう一基は調整に手間取っていたようだが、見るに見かねたリタが代わるとあっという間に準備は完了したようだ。
「リタ凄いです」
「こ、これくらいどうってこと無いわよ」
 ほら、とエステルを促したリタに、少女は望遠鏡を覗き込んだ。途端、小さな歓声が上がり耳にしていたユーリは口元を持ち上げる。確かに此処は何も無くとも見上げればかなりの数の星が見えるのだ、きっと望遠鏡越しになら更に沢山のそれらが見えるのだろう。
「何か見える?」
「あ、ユーリ。凄いです、見るところ見るところ星が散らばっていて」
 顔を上げたエステルがリタを促せば、彼女も興味はあったのだろう、素直に望遠鏡を覗き込んだ。
「まあ、確かに良く見えるみたい」
「でも、いっぱいありすぎてどれがどれだか」
 苦笑したように手に持つ星座早見表を示した少女に、ユーリはそれを受け取って懐中電灯をかざして眺めた。
「有名所は夏の大三角とかだけど、どうせならもっと分かり易いのにしたら?」
「分かり易いの、です?」
 話が聞こえていたのだろう、ユーリが声を掛ける前に場所を空けたリタは、ガキんちょどもの様子を見てくるわ、とウンディーネとジュディスが見守る年少の子供達が集まる望遠鏡の方へ行ってしまう。周囲に居た少し年上の子供達はと言えば、予習ということなのだろうか各自持つ早見表や方位磁石でどの星を観察するのか話しているが……。
「これは気ぃ使わせてるとか、か?」
「ユーリ?」
「いや、何でも」
 望遠鏡を覗き込んだ青年は、その方向を動かして何かを見つけたのだろう、それを固定してから見守る少女を手招きした。
「今日は晴れて雲が無いから、良く見える」
 何がだろうと思いながら、青年の空けた場所に立って再び望遠鏡を覗き込んだ少女は、そこに見えた天体に歓声を上げた。
「凄いです、綺麗……」
「ちと欠けてるが、良く見えるだろ」
「はい。普通には良く見上げるのに、こうして見ると不思議ですね。月、綺麗です」
「一番近い天体だし、日々変化があるし、観察対象としても面白いだろ」
「はい。残念です、自由研究があれば是非そうするのに」
 高校三年の彼女にあるのは、もっぱら国文や英語と言った受験科目の課題である。
「いいんじゃないの、個人的に観察するのも。とは言え、あんたは受験生なんだし、あんまり違う方面に興味を向けるのはどうかと思うけど」
「仕方がありません。取り合えず今夜たっぷり観察して我慢します」
「それがいいんじゃない。志望校に合格したら、来年の夏はあんたが満足するまで何回でも観察させてやるよ」
 その言葉にエステルは顔を上げ、戸惑いながら問い掛けた。
「来年の夏、です?」
「ああ。ちゃんと受かれば、来年の夏は何も無いだろ」
「何回も?」
「一回でいいなら別だけど?」
 不思議そうに返しながらそれじゃあ足りないのだろうと含んだような青年に、少女は首を振りながら笑顔で言う。
「約束、ですよ?」
 その様子を遠巻きに見ていた他の者達――主にウンディーネやジュディス、カロル、リタはどこまで互いに気付いてやっているのだろう、と溜息を吐いた、と言う話をからかいと共に二人が聞かされるのは翌年の夏のことになる。


*夏休みのとある一コマ。

13.レンズ

【本編終盤/ヘリオード/微ユリエス/掌編】

 最終決戦に向けて戦力強化を目的にバウルの力を借りて世界を巡っていた一行は、新興都市ヘリオードを目前に大嵐に見舞われ、強行突破は危険ということで徒歩でヘリオードへ向かい、滞在して天候の回復を待つこととなった。
 星喰みの一件以来、旅に出る者も減ったとは言え、やはりこの天候で予定外の滞在を余儀なくされた者も多かったのだろう、宿はほぼ満室となっている。それでも、ワンフロアぶち抜きのランクの高い部屋は空いており、そちらの部屋を手配することに。
 少々高い出費ではあるが、旅を始めた頃と違い資金にも余裕がある。それに思わぬこととは言え、久し振りの丸一日の休養なのだ、ならばゆっくり出来るようにこれくらいは良いだろう。
 部屋に荷物を置いた後は各自の時間となった。
 カロルとジュディスはこれまでに手に入れた素材を持って一階のショップで合成を。リタはレイヴンを荷物持ちに、やはり一階のショップへ買出しに。ユーリは男性陣に与えられた部屋で武器の手入れ、ラピードはその傍らで休んでいるはずだ。
 エステルは紙面から視線を上げると、その顔にかけていた眼鏡を取って、瞳を瞬きぐるりと部屋を見回した。
「……変えなきゃ、でしょうか」
 一人呟いたはずの言葉に返答があったのはその時だ。
「何か変えるの?」
「あ、ユーリ」
 寝室に当たる部屋を出て、女性陣の使う部屋の間にあるラウンジに出て来た青年は、テーブルの一角で読書をしているエステルに問い掛けた。
「その、レンズを変えなくてはいけないと思って」
 これです、と一度外した眼鏡をかけて見せたエステルに、ユーリは珍しいものを見たような表情になった。
「あんた、眼鏡かけるほどだった?」
「いえ、ほんの少し近視で日常生活に支障がある程では無かったんですが、文字の小さな書物を読む時はかけるようにしているんです」
「へえ……、それを変えないと、ってことは……。何だ、悪くなってんじゃねぇか」
 心なしか眉を寄せた青年の言葉に、エステルは再び眼鏡を取って首を振る。
「元々度の軽いものでしたし、ほんの少しだけでちゃんと見えますから」
「ほんとに?」
 歩み寄ってきたユーリは、エステルの傍で足を止め、背を屈めた。
 近づいてきた秀麗な顔。頭を下げることによって肩口から滑り落ちた髪の一房。距離にして拳二つ分程だろうか、そこまで顔を近づけたユーリは尋ねる。
「見える?」
「え、あ、み、見えます」
「ふぅん」
「あ、あの……、ユーリ」
「何?」
「ち、近い、ですっ」
「大した距離じゃないだろ」
「そ、そんなことないですっ」
「なら、これより近くないと見えなくならないよう、少しは夜の読書を控えるんだな。見えないと、何するか分かんないし」
 言いながら背を伸ばしてエステルから離れた青年に、少女は頬が熱くなるのを感じながら彼を見上げた。


*ちょっぴりエローウェル氏。エステルの近眼は捏造です。

12.的中

【本編中?/ナム孤島/ジュディス&カロル/掌編】

「Highよ」
 目の前に出されたカードを一瞥するなり答えたクリティアの女性。ディーラー役であるうしにんは伏されたもう一枚のカードをめくる。
 結果は彼女の読み通り。
「お見事~。まだ挑戦する?」
「勿論よ」
 にっこりと笑んで申し出を受けた彼女に、傍らでその様子を見ていたカロルがぎょっとしたように目を見開いた。
「ちょ、ちょっとジュディス、いいの!?」
「あら、首領は反対?」
「だって今度は『8』なんだよ? HighもLowもほぼ半々の確率だし……。もし外れたら、今まで成功して増やしたチップも全部無かったことになるし」
 これまでに彼女が増やしたチップの枚数は五万枚。カロルの言うように、ふいにするには惜しい枚数である。
「そうね。少し勿体無いかしら」
「そうね、って。少しどころじゃないと思うけど。五万枚だよ?」
「でもカロル、成功すれば十万枚よ? それには惹かれるでしょう?」
「そ、そりゃあ……そうだけど」
 でしょう、と満足げに頷いたジュディスは続けた。
「それに、スリルがあって良いじゃない」
「……ジュディス、ゲームにまでスリルを求めるんだ……」
「どうする~? 今ならまだ、降りても良いけど?」
 二人のやり取りを見ていたうしにんが問い掛けると、ジュディスは首を振る。
「いいえ、やるわ。今度はLowで」
「それじゃあ、いくよ」
 開かれた『8』のカードの隣に伏せられたカード。それがうしにんの手によって開かれると、ジュディスは笑みを深める。
「的中ね」
「~……はあ、心臓に悪いよ」
 開かれたカードの数字は、たった一つ違いの『7』。思わず安堵するカロルをよそに、うしにんは再び何回目かになる言葉をジュディスに投げかけた。
「それで、次はどうするの?」
「勿論、挑戦よ」
「えぇっ!? ジュ、ジュディス! まだやるの!?」
 先程、見事ジュディスが当てたLowのカードの数字は『7』で、これもまたほぼ半々の確率である。
「うふふ、ドキドキするわね」
「うふふ、じゃなくて……」
「今回もLowでお願いするわ」
「Lowだね~。それじゃあ、開けるよ?」
 もったいぶってゆっくりとカードに手を伸ばすうしにんと、それをまるで戦闘時の瞳で見つめるジュディス。
 ただ一人の観戦者であったカロルは、もう次の機会があっても彼女のポーカーは見物しまいと心に決めるのだった。


*ナム孤島のポーカー。好戦的なクリティアっ娘と首領。

11.酔い

【ED1年後/夜の食堂兼酒場にて/ユーリ&エステル&仲間達/掌編】

「ユーリ」
 にっこりと、それはそれは輝かんばかりの笑顔を浮かべて己の名を呼んだ少女は、彼が何を返す前にその首に腕を回して抱きついて来た。
 困ったのは当の本人でも、抱きつかれた青年でもなく、周囲に居た仲間達だ。ただそれもほんの僅かで、すぐにそれぞれの性格がにじみ出た態度に変化する。最初は呆気にとられたものの顔を赤くして視線を逸らす少年や、声を掛けて離れさせようとする少女、微笑みを崩さぬまま杯を進めている女性、にやにやと笑う中年の男、と。
 さてどうしてやろうか、と青年は抱きつく少女が崩れ落ちぬように片腕を腰に回してやりながら、もう片方の手に持ったままだった杯を傾ける。アルコールが喉を通り抜けて行く感覚をひとしきり味わった後、見下ろした少女は猫のように懐いている。
 肩口に頭をもたれさせ、頬を摺り寄せて、いっそリタの持つバイト時の衣装の猫耳をつけてやりたいくらいの様子だ。
「エステル、もう休め」
「なんでです? わたしまだ、ユーリと一緒に居たいです」
 こてん、と首を傾げてユーリを見上げたエステルは、上目遣い(とは言え、身長差から必然的にそうなるのだが)でそう告げて更に擦り寄って、吐息を一つ漏らす。
 酒が入っているからなのだろう、熱い吐息がふわりと青年の首筋に掛かり、それがある場面を思い起こさせる。彼は不意に起こった衝動を押さえ込む為に口元を引き結んだ。
「エステル」
「いや、です」
 まだ一緒に居たい、再びそう告げた少女に、青年は持っていた杯を置き――抱きつくままのエステルを抱えて立ち上がった。いわゆるお子様抱っこ的な状況で持ち上げられた彼女は、何が起こったのかと不思議そうに瞳を瞬いている。
「カロル、明日はこの街に留まるってことで良かったんだよな?」
「え、あ、うん。物資の補給とか、情報収集とかあるし」
「オレ達は午後手伝うから、そのつもりで居て。朝は構わなくていいから」
 言外に、二人起きて来なくてもほっとけという言い分に、戸惑うカロルに代わってジュディスが微笑のまま頷いた。
「朝食も良いのね?」
「ああ。んじゃ、行くわ」
「青年、ジュディスちゃんとリタっちの部屋代、何とかしてよ?」
「今日の飲み代でいいだろ。明日渡す」
「リタ、おやすみなさい~」
「あー、もう、明日覚えときなさいよ!」
 こうなっては止められないのだから、と悔しそうに声を上げた少女に、それはそれは楽しげに目を眇めたユーリ。
「明日の午後なら、いつでも?」
 そう言い置いてエステルを抱えたまま食堂兼酒場を出て行ったユーリ。その後姿を見送っていた一堂は、とりあえず今度の機会にはあの少女が飲み過ぎないよう目を離さないでおこう、とそれぞれに思うのだった。



*とある街の食堂兼酒場でのユリエスと仲間達。

10.生まれる前

【騎士姫パラレル/掌編】

「……ふぅ」
 ぱたりと本の背表紙を閉じて吐息を漏らしたエステルの視界を、すっと横切って目の前に置かれるティーカップ。ソーサーの上にあるシルバーのティースプーンには角砂糖が一つ乗せられている。
「ご休憩なされては如何でしょう、殿下」
「ふふ、有難う御座います。ではユーリも」
「お命じとあらば」
「……ユーリは意地悪です。命令ではなく、お願いです」
 しばらく無言の攻防が続いた後、青年は少しお待ちをと言い置いて部屋の扉へと向かった。静かに開き、扉の外に立つ衛兵に二、三言何かを申し付けてから、再び扉を閉じて戻ってきた。
「半時ほど人払いをさせました。結界を」
「分かりました」
 テーブルの上に置かれたそれに手を伸ばした少女は、軽く力を込めて鍵となる一言を口にした。途端、部屋全体が見えない「場」によって囲われる。
「お疲れさん」
「リタのくれた結界石があってのことです。これのお陰でユーリとも『ちゃんと』お話出来るようになりましたから、これくらいお安い御用です」
 にっこりと笑顔で言った彼女に、普段はその忠実な騎士である青年は苦笑する。
「言ったろ、あれは仕方ないんだって」
「分かっていますよ、それも。でも、やっぱり少し寂しかったです」
 皇族の姫とその騎士。であるからこそ、このように気安く言葉を交わすことなど出来ずにいた。それが変わったのは、とある視察で出会った天才魔導士と呼ばれるリタの発明のお陰で、以来こうしてお茶の時間には私的な時間にも外せなかった立場の仮面を脱いで会話が出来るようになっていた。
 青年は苦笑し、それから向かいの席に腰を下ろしてワゴンから予備のカップを取り上げた。手ずから紅茶を注ぎながら、そう言えばと一言。
「朝から何を熱心に読んでたんだ?」
「これです?」
 テーブルの上の閉じられた本を示した少女に頷き、青年はシュガーポットへと手を伸ばした。
「神話の本です。色々とお話があったんですけど……、ユーリは前世って信じます?」
「前世?」
「魂というものは、人としての生を終えた後に肉体から解き放たれ、そして時を置いて再び新しい肉体に宿り新たな生を得る。輪廻転生という考えです」
「つまり生まれる前のこと?」
「そうですね、そう考えてもらって良いと思います」
「そうだな……。オレはオレだし、今エステルが言った考えが本当だとしても憶えてないんじゃ何とも言えないし。まあ、そっちはそっちで『生きて』たんだろ、きっと」
 二杯ほど砂糖を入れて一口、そしてカップを置いてさらに一杯追加してもう一口。納得したのか二口ほどカップを傾けてから満足げにソーサーの上に戻した青年の言葉に、エステルもカップを傾けてから言った。
「わたしは、もし生まれる前に別のわたしが居たとして、そちらでもユーリと知り合ったのでしょうか、そう思いました。縁のある人は、前世でも何かしら絆があった人なのだと書いてありましたから」
「へぇ」
「そちらで知り合いだったら、最初からこんな風にお話出来たのかな、って」
「あるかもわからない『前』を羨んだって仕方ないだろ。オレもお前も今を生きてきて、だからこうやって向かい合ってる今があるんだし。それともあんたはオレが騎士じゃない方が良かった?」
「い、いいえっ! ユーリ以外の方がわたしの騎士なんて、考えられません!」
 思わず声を上げた彼女に、青年は一つ瞳を瞬いて口元を持ち上げる。
「それは恐悦至極」
「……ユーリ」
「オレも、あんた以外の騎士になるなんて考えられないからな」
「もう……、やっぱりユーリは意地悪、です」
 呟いた彼女の頬が淡く染まり、意地悪と評された彼女の騎士は更に笑みを深めた。



*捏造騎士×姫設定でお茶の様子。

9.はじめての日

【本編中/帝都脱出直後/ユーリ&エステル&ラピード/掌編】

 帝都下町から脱出し、一歩結界の外に出た二人は、目の前に広がる広大な「世界」に迎えられた。
 どこまでも続いているような広い大地、青々と茂る草に描かれたような街道、遮るものがなく吹き抜けて行く風、何ものにも切り取られずに頭上に広がる青い空。
「す、ごい……」
 正真正銘、これまで外に出たことが無かった、それどころか城という豪奢で広い籠から出たことのなかった少女は、あらゆる五感を刺激するような初めての「世界」に、沸き起こる感情をその一言に乗せて零した。
 隣に立つ青年もまた、その光景に目を奪われていた。結界の外に出るのは初めてではない。過去、騎士団に在籍していた短い間に任務でもって帝都近郊とは言え出たことがあるのだ。
 けれど、何にも属さないただのユーリ・ローウェルとしては彼にとっても今日が初めての日で。
「これを見ると、広い帝都もちっぽけなもんに思うんだよな」
「ユーリは、帝都の外に出たことがあるんです?」
「昔、仕事でな。個人としては今日が初めてだけど」
「それじゃあ、お互いに今日が『はじめての日』です」
 嬉しそうに微笑みながら青年を見上げて言った少女に、彼もまた口元を持ち上げ、そうだなと同意する。
「取り合えずこの快晴だ、他の状況はどうあれ、天気だけは幸先が良い出発になって何よりだぜ」
「はい。まずはデイドン砦、です」
「この街道を真っ直ぐ北だな。追いつかれる前に進むか」
「ワン」
 頷くと、ユーリに答えるように足元に座っていたラピードが腰を上げて一声吠えた。
「あの、そちらは?」
「ラピード。オレの相棒な」
「分かりました。宜しくお願いします、ラピード」
「ワフ」
「――そんじゃ……行くか、エステル」
「はい、ユーリ、ラピード」
 そうして二人と一匹は、陽光の降り注ぐ下「世界」への第一歩を踏み出した。


*帝都を出た直後を管理人的妄想で。

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