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59.喧嘩!

【ED後/「waltz.」設定・未来/ユリエス&息子&カロル/掌編】

※この話はユーリとエステルの結婚から数年後のお話であり、かつ二人のお子様達というオリジナル設定のキャラクターも登場します。それでも宜しければ折りたたみの中(携帯の方はこの下)をご覧下さいませ。


※兄:アルクトゥス・ローウェル[Arctus](アルカ)6歳、妹:スフィアリカ・ローウェル[Sphiarica](フィア)3歳。当然二人の存在も名前も設定も捏造ですので、ご了承の上、ご覧くださいませ。


 少年は朝から困惑していた。
 いつも内心でもう少し控え目にしてくれないかな、と思っているくらいに仲の良い両親が、朝から険悪な雰囲気なのだ。
「おはよう御座います、お父さん、お母さん」
 しかしそれでも挨拶はすべきだろう、と朝の挨拶をすれば、互いを見ないようにしていた両親は少年に視線を合わせて口を開いた。
「おはよう、アルカ」
「おはようございます、アルカ」
 同時に返って来た言葉はいつものことだったが、その後の反応はと言えば――。
 再び視線を逸らす有様だった。
「おはようアルカ、ユーリ、エステル! ……って、どうしたの?」
「おはようございます、カロル兄さん。その……」
 昨日、客人として泊まっていた茶髪の青年は少年の両親の古くからの仲間であり、父の所属するギルドの若き首領である。彼のギルド首領最年少就任記録は今でも破られていない。
 その青年に背後から声を掛けられた少年――アルカは困惑も顕わに彼を振り仰いだ。
「ユーリ、エステル……何やったの?」
「別に。ただエステルが拗ねてるだけ」
「違います。これは喧嘩! です!」
 憤然とした様子で言い返したエステルが続けた原因は、以下の通りである。
 朝食のデザートに出そうと思っていたヨーグルトに添えるつもりだったジャムを、全部紅茶に入れてしまったこと。ちなみに量はローウェル一家と客人であるカロルの分を考慮しても十分なほどにはあったとか。そして更には、昼食後に作ろうと思っていた菓子に使う予定だった果物を食べられてしまったこと。一つだけでなく、同じものが二つあったのを、二つともらしい。
 それを聞いたカロルは、肩を落としながら呆れたように溜息を吐く。
「……ユーリ、甘いもの好きは分かるけど、朝から食べ過ぎだよ。ジャムって……、昨日ボクがお茶の時間に見た時は結構残ってたし、果物も……。ボクはエステルが怒るのも無理ないと思うけど。でも、エステルもユーリの甘いもの好きは十分過ぎるくらい知ってるんだし、予防しとくとか、事前に言っておくとか。……どっちにしろ、大人気ない話だと思うけどね」
「けどそれならな……」
「でもやっぱり……」
 不満そうに口を開いた二人を止めたのは、黒髪に新緑色の瞳を持つ彼等の息子だった。
「喧嘩するほど仲が良い、と以前、リタ姉さんとレイヴンおじさんのことをジュディ姉さんが言ってたことがありますけど、確かにそうみたいですね」
 でも、と少年は両親それぞれに視線を合わせてから続ける。
「フィアが怖がりますから、あの子が起きてくるまでに仲直りして下さいね」
 にこりと微笑しながら言った少年に、両親は思わず顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
「良かった。じゃあ、僕はフィアを起こして来ます」
 少年が出て行った後、彼を見送ってからカロルがしみじみと呟く。
「……どちらに、ってわけじゃなくて……、でもやっぱり二人の子供だよね、ほんと」
 強制していないけれど納得させちゃう雰囲気とか、こうと決めた大事なことは譲らない所とか。
 続けられた感想に、それまで「喧嘩」をしていた少年の両親も苦笑しながら同意する。
 勿論、少年の妹が起きて来た頃には険悪な様子は欠片もなかったという……。
 花の街ハルルのローウェル家における、客人を交えたある朝の一コマである。


*実はハロウィン企画話で出たり、オフ本のおまけ本で出たりとしていたお子様達ではありますが、名前が出たのは初めてだったりします。

58.記念日

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ22歳・エステル19歳/掌編】

「ほい、新作」
「わ。有難う御座います、ユーリ!」
 目の前に静かに置かれた白いプレートの上には、その色と同じ白い色の楕円形のムースが二つ。そこに果肉が混じったピンクのソースが掛けられていて、目に鮮やかである。
「ユーリ、これ……ハート、です?」
「そう。普通に形を作るんじゃなくて、楕円二つを組み合わせてな」
 少し変形した二つの楕円が組み合わさることで、細長いハートに見えるようなそれ。
「可愛いです。このソースの色もそうですけど……、何でしょう?」
「食べてみたら?」
 口角を持ち上げながら促す青年に、エステルは静かに銀のフォークを手にして、そっとその端を切り離して口へと運んだ。
 ほどよく硬さのあるムースは、しかし口の中へ入った途端に溶け、仄かな酸味を残して消えていく。
「これ、ヨーグルトです?」
「ああ。あまり酸味がきつくならないように、風味程度にしてるけど」
「ソースも酸味があって……、あと、少し苦味があります? この果肉は、オレンジと似ているような気がしますけど……」
 ソースの掛かった部分を続いて口へ運んだ彼女は、しかしこちらは完全には分からなかったのか、感想を紡ぎながらも首を傾げている。
「惜しいな。柑橘系なのは合ってるけど」
「この色は食紅を使ってるわけじゃ……ないんですよね?」
「ああ。天然もの」
「ええと…………、降参です」
 分からない、と眉尻を下げて言ったエステルに、ユーリは小さく笑いながら口を開いた。
「ピンクグレープフルーツだ。丁度今が旬だしな」
「そうなんです?」
「そう。味わいもイメージにピッタリするし?」
「イメージです?」
「甘酸っぱくて、少しほろ苦い。あんたと会うまで、そんな思いするなんて思ってみなかったんだけどな」
 意味深に言って微笑した青年に、エステルはしばしの間小首を傾げて考え込み……、そして思い当たったのか、あ、と声を漏らす。
「もしかして、その……、恋、です?」
「一年前の今日、だろ」
「あ……、そう、でした。今日ですね」
「まあ、あんたにとってはあんまり良い日じゃなかったかもだけど」
「それは、その。確かにそうでしたけど、でも今は、ユーリに出会えた日ですから」
 にこりと笑んで、それからふと気付いたように彼女は尋ねた。
「月替わりの前に新作頂いたのに、またと思ったら、記念日だからです?」
「そういうことだな。いつ気付いてくれるかと思ってたんだけど」
「う、その……済みません」
「んじゃ、エステルから一口くれたらスッキリ水に流す」
「……わたしから、一口、です?」
 エステルから。
 その言葉の意味を考えて、もしかしてそれは自分から食べさせるということなのだろうかと思い当たった彼女は頬を染めて青年を見て、婉然と笑みを返した彼に更に頬を染め上げた。
 それは白いプレートの上のハートを染めた、ピンクよりも鮮やかに。

*出会って二年目の春。丁度、あの出会いから一年後ということで。

57.眠れない

【ED後/下町の下宿にて/ユリエス/掌編】

 時は深更も過ぎた頃。日中は常に人のざわめきに溢れている帝都も、今は夜の闇の中、静けさが横たわるばかり。
 だからこそ、余計に耳につくのだ。図らずも数日間の期間限定で同居人となった少女の寝息が。
(ラピード、恨むぜ……)
 朝食を摂ったきり部屋を空けていた青毛の相棒は、夕食の時間になっても戻らず、狭い部屋には真実二人しか居ない。彼が戻らないことはままあることとは言え、今日ばかりは八つ当たりめいた愚痴も零したくなる。
 青年は小さく吐息を漏らし、そのまま天を仰いだ。
 せめて月も無い夜ならば、例え星が眩くとも部屋は闇に塗り潰されるだろうに、これもまた図らずも満月の夜なのである。お陰様で窓から差し込む月明かりに、照明を消した部屋も仄かに明るく、そして良く見えるのだ、安らかに眠る彼女の寝顔が。
 旅の間に何度と無く見たことがあるはずだった。しかし、その時と今では、抱く思いが違う。
 大人になった、と青年は思った。
 何も知らなかったお姫様は、外に出て、世界を知り、自分を知り、理想の未来しか見ていなかった目を、自分で決めて自分で選び取る未来へと向けるようになった。
(眠れない……)
 一つ、溜息を漏らす。
 寝ぼけて己の意にそぐわないことをやらかす可能性がゼロでは無い限り、悠々と眠れるはずなかった。
「眠れるわけ、ねぇっての」
 呟いた青年の言葉は、闇に溶けるように響いて消えた。


*今更ながら「7.事情」のなんちゃって同居生活の序章のその夜。続いちゃいました。

56.刹那

【芸能界パラレル「Act!」設定/撮影所にて/掌編】

※この話はMainの「Parallel world」にある芸能界パラレル「Act!」設定での掌編です。詳細はそちらの設定をご覧下さい。こんな特殊なパラレルでもオッケーという方は、折りたたみの中(携帯の方はこの下)をご覧下さいませ。

 屋内外に設営された本物と見紛うばかりのセットの中には、中盤の幾つかある重要な場面が集中する、砂漠とその中に存在する街が再現されているものがある。
 その大きな街の宿屋が今回の撮影の舞台だった。
 闇の中、僅かな照明だけが灯る部屋。寝台に横にならずに壁際に座り込んでいた彼は、立ち上がる。
「オレはオレのやり方で……か」
 己の右手を見つめ、まるで言い聞かせるように呟いた黒髪の青年。手を下ろし、顔を上げた……その刹那、空気が変わった。
 彼は静かに眠る仲間達をしばしの間見つめた後、剣を手に一人宿を出て行く。
 残るのはただ、静かな寝息と、遠く響く虫の音だけだった。
『カーット!!』
 と、響いたその声に何もかもが霧散する。
 屋内の照明が灯り、闇がすっかり拭われる中、それまで寝台に横になっていたエステル、リタ、カロルも起き上がった。スタッフに促されるまま、セットを出てモニターのある方へ向かうと、この場面では出番の無かったジュディスとレイヴン、フレン以下のキャスト達がそれを覗き込んでいた。
「お疲れ様」
 いち早く気付いたジュディスが微笑のまま彼等を労うと、三人は案内されるままにモニターの正面に陣取り、今撮り終えたばかりの場面のリプレイを見た。
「……凄かった」
 見終えたカロルの呟きに、レイヴン、フレンが頷く。
「確かに。いやー、あの切り替えは変わってないねぇ」
「ユーリは『役の空気』を意のままにしてしまいますから。……子役からやってきた僕の方が芸歴は長いはずなのに、敵わないなぁ」
 子役の頃から青年をよく知る二人の感想に、エステルが口を開いた。
「……わたし、ユーリの演技を見て、この世界に入りました。あの空気に、とても惹かれて。だから同じ場所に立って演技しているのが、今も不思議なくらいです」
「何か、分かる気がする」
 リタもぽつりと呟いて、監督の居る方へと目を向けた。そこには、監督と共にモニターを見つめている黒髪の青年が居る。
 間も無く笑顔で監督が声を掛けると、助監督が拡声器でオッケーの声を上げた。すると停滞していた時が動き出したかのように、次の場面の撮りに向けて、スタッフが作業を再開し始めた。
 監督と話を終えた青年が皆の集まるモニターの方へ歩み寄ってくると、僅かに緊張したようにカロルが顔を上げたが、ユーリは軽い調子で片手を上げて口を開く。
「よ、お疲れさん」
 途端、がくんと力が抜けたように肩を落とすカロル。リタも詰めていた息を吐き出し、エステルは二人の反応に小さく笑った。
「お疲れ様です、ユーリ」
「ああ。……そこの少年少女はどうしたわけ?」
「うーん、ちょっと青年の演技に当てられちゃったみたいね」
「うふふ、おじさまの言う通り、確かに刺激的だったわね」
 青年の疑問にレイヴンとジュディスが答えれば、フレンが笑みながら続ける。
「さすがだね、ユーリ」
「……別に、大したことはしてないと思うけど」
 肩を竦めた彼は、しかしすぐに名を呼ぶ声に肩越しに振り向いて踵を返した。
「悪い、すぐ次みたいだし、先に行くわ」
「僕はもうすぐだね。楽しみにしてるよ」
「モニターから見てますね、ユーリ」
 フレンとエステルの声に軽く手を振って、街の外が再現されているセットへと向かうユーリの後姿を見送りながら、カロルが呟く。
「ユーリみたいに、なれるかな」
「ええ。カロルは努力家だし、伸び盛りだもの。大丈夫よ、きっと」
「にしても、寒気がしたわ、さっき。あたし休憩室でお茶飲んでくる」
「リタは見に行かないんです?」
「休憩室にもモニターあるでしょ、そこで見るわよ」
 言って、先にさっさと屋内セットの中に設けられていた休憩室の方へ向かった少女に続くように、カロルがボクもと言って駆けて行く。
「エステリーゼ様は見に行かれるのですよね」
「はい。フレン、今は休憩中ですから様付けしなくても良いですよ?」
「ああ、つい。では行きましょう、エステル」
「私も一緒に行くわ」
「ジュディスちゃんが行くなら俺様もー」
 そしてそこから彼等が立ち去り、刹那の空気が生まれた場所はやがて先ほどのように静まり返った。


*「50.許さない」の後。あらすじ76の例のシーンを芸能界パラレルで。

55.木

【ED後/花の街ハルル/ジュディス&リタ/超掌編】

「珍しいじゃない、あんたが此処に居るの」
「あら、そうかしら?」
「少なくとも一人で、って言うのは初めて見たような気がするけど、ジュディス」
 名を呼ばれた女性は、木の幹に手を当てたまま少女を振り向き、微笑した。
「ハルルを見守り続けてきた方だから、一度きちんとご挨拶してみたかったの」
「……分かるの?」
「エステルのヴェールの一件で知っているでしょう? いらっしゃるわよ、此処に」
 ねぇ、と微笑を深めながらハルルの木を見上げたジュディスに答えるように、枝がざわめく。風も無いのに確かに揺れた枝から、はらはらと零れ落ちてくる花弁が二人に降り注ぐ。
「で、何て?」
「満月の子と凛々の明星を宜しくお願いします、ですって」
 うふふ、と楽しそうに笑う彼女に、少女――リタは半眼になった。
「ちょっと、本当でしょうね」
「本当だと思うわ」
「思うわ、って。何よ、曖昧な」
「バウルとは違って、少し分かりづらいのよ。でも、間違っては居ないはず」
 その通り、とでも言うように再び木の枝がざわめき、いっそう花弁を散らす。
 リタは苦笑しながら小さく肩を竦め、ジュディスはそれを見てくすりと笑い――、そして二人揃って長き時を生きる大樹を見上げた。

*クリティア族のナギーグは植物からも何か読み取れるのだろうか、と思いつつ。

54.うた

【ED後/「waltz.」設定・未来/ユリエス掌編】

 不意に耳慣れない旋律が夢現の彼女の耳に入って来て、それまで深く沈んでいた彼女の意識が浮上した。
 これは何の旋律だろう。どこか懐かしくも感じるそれは、エステルが良く知る青年の声で紡がれている。
 重たい瞼をゆっくりと持ち上げてみれば、彼女が横たわる寝台のすぐ横に青年の姿があった。闇の中、彼は腕に何かを抱えながら鼻うたを歌っていた。
 ゆらり、ゆらりと体を揺らしながら紡がれる旋律。それはまるで、子守歌のようで――。
 と、彼女は彼が何をしているのか思い当たり、それまで夢半ばでぼんやりと開いていた瞳を見開き、半身を起こした。
 突然起き上がった彼女に気付いたのか、旋律が途切れる。代わりに響いてきたのは低い笑い声。
「怖い夢でも見た?」
「……違います。そうじゃなくて、ごめんなさい、ユーリ」
「何が?」
「だって、あやしてくれていたんですよね」
 全く気付きませんでした。
 そう小さな声で続けた彼女は、寝台の周囲を見回して溜息を零した。青年が彼女を起こさずに今立っている場所に来るには、寝台を回り込まなければならない。青年は元々気配に敏感ではあるが、それでも今まで気付かずに眠っていた事実にもう一つ溜息が零れる。
「気にすんなって」
「でも」
「いいんだよ。あんた朝も昼も気が休まる暇無いくらい動いてるんだし、夜くらいゆっくり休まねぇとそのうち倒れちまうだろ」
「そんな。ユーリもいっぱい助けてくれてます」
「そう? どうあっても今のこいつの食事は提供してやれないし、その分エステルの方に負担があるだろ。事実、授乳にだって結構体力使うって産婆の婆さんから聞いたし」
 答える合間にも腕を揺らすことは止めない青年に、エステルは苦笑を浮かべた。
「当然です。その子のお母さんですから」
「だからって、全部が全部『お母さん』がやんなくても良いんだって。結構泣いたのに起きなかったのが疲れてる証拠だろ。いいからこういう時には遠慮なく頼れって」
「ユーリ……」
「オレはこいつの『お父さん』なんだし、当然なの」
 な、と腕の中で眠る小さな存在に笑いかけた彼に、エステルの苦笑が柔らかに解けて微笑へと変わる。
「そう、でした。ごめんなさい、ユーリ」
「お互い様。まだ生まれたばっかだからしばらくは此処に居るけど、もうしばらくしたらどうしたってオレは家を空けるようになるんだし。そうなったらどうあってもあんた一人に任せちまう」
「大丈夫です。その頃には、今よりもっと『お母さん』になってますから」
 笑顔で言い切った彼女に、青年はふと笑って片手を伸ばして頭を撫ぜる。髪を梳くようにしながら何度か繰り返した後、先に寝るように促した。
「もう少ししたらオレも寝るから、あんたは先に寝てろ」
「はい。おやすみなさい、ユーリ」
「ん、おやすみ、エステル」
 再び寝台に横たわったエステルは、瞼を落としてまだ身の内に留まっていた睡魔の囁きに耳を傾ける。しばらく夢現に漂っていた彼女が、唐突に深淵に誘い込まれたその時、先ほどの旋律が耳に届く。
 そう言えばそれは子守歌なのだろうか、次に起きた時に尋ねてみようと思いながらも、抗えぬ囁きに引き寄せられるまま、エステルの意識は眠りの淵に落ちた。

*「35.欠片」の一年後くらいで、「52.手紙」の数年前。

53.石

【本編中/第三部終盤/微ユリエス&カロル/掌編】


「ユーリ! あったよー!!」
 はい、コレ。駆けて来た少年が差し出した手の平の上には、まるで星のような形をした、それ自体淡く光を持つ石が二つ。
「お、サンキュー、カロル先生」
「これで合成に必要な数は集まったんじゃない?」
「そう言えばユーリ、最近星石を集めてましたけど、何の合成に使うんです?」
 共に戦闘メンバーとして戦っていたエステルがスカートの裾を軽く叩きながら問うと、青年は腰に下げていた道具袋を覗き込みながら答えた。
「剣をな。赤、青、緑、橙、それから光。五種類の星石を五個ずつ。天地の窖のコザクラ曰く、それで他に無い武能を秘めた剣が出来るはず、なんだと」
「星石って中々集められないのに、五種類を五個ずつだもんね。集め始めてから結構掛かったんじゃない?」
 カロルの問いに、確かにとユーリは頷いた。
「地道にスーパースターの各色が落とすのを集めるしかねぇかと思ってたら、ナム孤島のガチャガチャから出てくるんだもんな。あれは正直、喜んで良いか憤って良いか複雑な気分だったぜ」
 肩を竦めた青年に少年と少女は顔を見合わせて笑って、それから少年は待機していたジュディスに声を掛けられてそちらへ駆けて行った。その背中を見送って、青年を見上げて口を開くエステル。
「でも良かったですね、これで必要な数は集まったんでしょう?」
「ああ。丁度明日はヘリオードで休息予定だし、あそこの合成屋に頼んでみるつもり」
 手際とセンスが良いってジュディお墨付きだし、と呟きながら光星石を道具袋に入れようとした彼は、ふと瞳を瞬いて一つだけをそこに入れ、残った一つをエステルに向かって放り出した。
 慌ててそれを受け止めた彼女は、不思議そうに青年を見上げる。
「ユーリ?」
「一つだけで良かったから、あんたにやる」
「わたしに、です?」
「何かに使っても良いし、その大きさだったら文鎮代わりになるんじゃない?」
「星石を文鎮にするんです?」
「まあ、何でも良いけど。要らないんならフィエルティアの倉庫に入れとく」
「いいえ、大切にします。有難う御座います、ユーリ」
「どう致しまして。っても、あんたのお陰で取れたもんでもあるけど」
「それでも、です」
 笑顔で言った彼女にユーリも口元を持ち上げて、並んで二人を待つ仲間達の元へ歩いていく。
 少女の手の中には、彼女だけの物になった小さな星が淡く光っていた。


*光星石が淡く光ってるってのは捏造です。大きさとかは手の平に収まる程度、というのも。

52.手紙

【ED後/「waltz.」設定・未来/ヨーデル&フレン/掌編】

「ヨーデル様、これを」
 執務の合間に設けられたごく僅かな休憩時間。女官が紅茶を淹れて退出するのと入れ違いに入ってきた騎士団長は、どこに持っていたのか一通の手紙を取り出し、ヨーデルの前に差し出した。
 公的なものならば文官が持って来るが、こうしてフレンが持ってきたということはそうでは無いのだろう。若き皇帝は差し出されたそれを手に取ると、宛名を見て口元を綻ばせる。
 つたない筆跡で「ヨーデル小父様へ」と記された封筒を裏返せば、差出人の名は思った通りのものだった。
「誰が?」
「レイヴンが。帝都に向かう途中で立ち寄った際に、と」
「ああ、定期報告の謁見は明日でしたね。では終了後に直接お礼を言いましょうか」
 言いながら執務机の引出しを開けて自らペーパーナイフを取り出した彼は、丁寧に開き便箋を取り出す。
 そこに記された文字も宛名と同じくつたないものではあったが、しかし差出人の年齢を考えれば、これだけしっかり文章が書けることに感心してしまう。挨拶から始まり、近況を伝え、そして本題。その本題に差し掛かった時、ヨーデルの青い瞳は驚きに見開かれた。
「陛下、いかがされましたか?」
 差出人のことはこちらも良く知っているフレンが、良くない知らせだろうかと声に滲ませて尋ねれば、ヨーデルはゆるりと首を振る。
「案ずるようなことでは無いですよ、フレン。いえ……、ある意味では案ずることではあるのだけれど」
「は……?」
 分からない、と疑問を顔に浮かべた右腕たる金髪の青年を見上げ、皇帝は微笑みのままに告げた。
「家族が増えるそうです」
「………………増えるっ!?」
 いくら他の者の目が無く、公的な場より幾分か気安い態度となっていたとは言え、それでもあまりないその反応に、ヨーデルは声を立てて笑う。
「今年の冬頃になる、と父親が言っていたと」
「そ、そう、ですか」
「それから、追伸で彼が。近々此方に来るそうです。このことを伝えに、でしょうね」
 紙面に落として最後まで読み終えたヨーデルは、丁寧に畳んで封筒に入れると、お祝いを考えておかないと、と呟いた。
「ああ、けれど少し困りましたね」
「は。何がでしょう?」
「祝いの品を男の子用にするか女の子用にするか、ですよ。それとも祝辞だけにして、祝いの品は後日にすべきでしょうか。ゆりかごはきっとお下がりを使うのでしょうし、あっても困らない物と言えば……」
「陛下、僭越ながら少しお気が早いのでは」
 苦笑しながら奏上した青年に、しかし若き皇帝は微笑みを絶やさぬままに返す。
「早いに越したことはありません。遠縁とは言えエステリーゼは親族で、私の副帝でもあったのですから。公的に祝辞を述べる機会が無いなら、私的に祝っても構わないでしょう」
「そう言って、あの子の時も早くから色々贈られてエステリーゼ様にお礼と共に窘められたのでは?」
「……そうでした」
 僅かに照れたように笑みながら、しかし祝うことは決定事項らしい。休憩もそっちのけでどうするか考え始めた姿に、金髪の青年は苦笑しつつ、手紙で知らせてくれた少年の父親たる黒髪の親友とその妻であるかつての皇女を思い浮かべ、彼等にもたらされた新しい「幸せ」を心から祝うのだった。

*「35.欠片」の四年後くらい。小父馬鹿な天然陛下が書いてみたかったのです。

51.ぬいぐるみ

【芸能界パラレル「Act!」設定/撮影所にて/掌編】

※この話はMainの「Parallel world」にある芸能界パラレル「Act!」設定での掌編です。詳細はそちらの設定をご覧下さい。こんな特殊なパラレルでもオッケーという方は、折りたたみの中(携帯の方はこの下)をご覧下さいませ。

「見てくださいユーリ、これ!」
「ん? それ……、何かに出て来なかった?」
 スタジオ内では無く、屋外セットでの撮影は天候待ちで頻繁に休憩が取られた。しかしそれ以外のシーンは可能な限り先撮りしているとあって、もうこうして神頼みをするしかやることが無い。
 いつ撮影再開となっても良いように、衣装のまま控え室で台本を眺めていたユーリは、ノックと共に入室を尋ねる少女の声に了承した。そして入ってきた彼女は、開口一番に尋ねたのだ。
 エステルが抱えている独特なフォルムのぬいぐるみ。決して可愛らしいとは言えない、つぎはぎの体にボタンで表された目。ユーリはどこか見覚えのあるそれに、首を傾げた。
「これ、深淵の物語に出て来た『アニス』の武器のトクナガです」
「深淵の物語、って……。ああ、このシリーズの十周年記念作品の。……ぬいぐるみが武器なの?」
「『アニス』は人形師ですから。彼女の武器のトクナガは、彼女の音素振動数に反応して大きくなるんです。それを操って戦うんですよ」
 生き生きと語る少女に、青年はふぅんと頷き、伸ばした手でぽふ、とぬいぐるみの頭を叩く。
「その前の作品の小道具を、何で持ってるわけ?」
「ユーリは知りません? このシリーズ、色んな所に他のお話と繋がりがあるものが出てきたりするんですよ。それで、スタッフの皆さんと次は何にしようかって倉庫でお話ししながら探してたんです」
「で、それに決定?」
「候補にはなってますけど、まだです。ユーリも行きません?」
 ぎゅう、とトクナガを抱き締めるエステルに、ユーリは片眉を上げて彼女を手招きした。
 小首を傾げながらも素直に歩み寄ってきた彼女は、不意に腕を引かれて抱えていたぬいぐるみを取り落とし、あっと言う間もなく青年の腕の中へ。
「……ユーリ?」
「オレはこっちのが良い」
「…………トクナガにヤキモチです?」
「さて、な。あんたはどう思う?」
「少し嬉しいかもしれません」
 くすり、笑いながら答えた少女の曖昧な答えに青年は僅かに面白くなさそうな顔になり、それを見てエステルはもう一つ声を立てて笑った。

*「50.許さない」より後の時系列のお話。

50.許さない

【芸能界パラレル「Act!」設定/撮影所にて/掌編】

※この話はMainの「Parallel world」にある芸能界パラレル「Act!」設定での掌編です。詳細はそちらの設定をご覧下さい。こんな特殊なパラレルでもオッケーという方は、折りたたみの中(携帯の方はこの下)をご覧下さいませ。

「ユーリはどう思います?」
「ん? 何が?」
 撮影所の一画に設けられた休憩スペース。いつもは他の役者やスタッフも居る場所だが、偶々なのか今は主役の青年とヒロイン役の少女だけだった。
 常備してある菓子を摘みつつ、先ほど渡されたばかりの次の場面の修正された台本に目を通していたユーリは、同じように台本読みをしていた少女の唐突な問い掛けに、紙面から顔を上げる。
「今、シーン52と53を読んでいたんです」
「……ああ、例の場面か。『ラゴウ』を討つ」
「はい。確かにカプワ・ノールでの話で出て来たように、『ラゴウ』の非道は許せないものだと思います。立場を利用して罪を軽くすることも。……それでも、法を犯しては……そうも思います」
 難しい顔で自分の考えを述べたエステルに、青年は苦笑しつつ肩を竦めた。
「けど、この『テルカ・リュミレース』に存在する『帝国』が定めた法が、偏った平等なものじゃないなら? オレは『ユーリ』がそうする気持ちが分かるけど」
 誰かがやらなければ、この先も非道が行われる可能性があるのなら。光ある未来を目指して歩き続ける、親友のその道を閉ざされる可能性があるのなら。
「どう考えても、オレの中の『ユーリ』は『ラゴウ』を許さない。あのまま何もしない所も想像がつかない。それが『テルカ・リュミレース』の『帝国』の定めた法を犯すことだとしても、あれがあの時の『ユーリ』の曲げられない正義だった。……オレはそう思ったな」
「正義、ですか」
「ああ。ほれ、この話のテーマ。『正義』を貫き通す、って」
「難しいです。少なくともわたしの『エステル』はまだ、迷いがいっぱいありますから」
 ぱたり、台本を閉じて溜息を吐いた彼女の口にクッキーが押し付けられた。思わず唇を開くと、放り込まれる香ばしいそれ。反射的に口を閉ざして、そのままサクサクとした食感を味わいながら噛み砕き、飲み下すと、ユーリの声が掛けられる。
「いいんじゃない、迷ってても。それが『エステル』なんだし」
「そう、です?」
「まあ、これからが辛い所だろ。迷えるヒロインには苦難が待ち構えてる、ってのはこの手の話の常套だし」
「……おどかさないでください、ユーリ」
「さて、な」
 最後に自分も、と青年がクッキーを己の口に放り込んだ直後、顔を出したスタッフが彼等に出番を告げる声を掛けた。
「さて、出番だ。行くか、『エステル』」
「はい。宜しくお願いしますね、『ユーリ』」


*本編中ではなく、パラレルでこの話を出すというのが捻くれている私らしいというか。画面がうるさいかもしれませんが、今回は話の中と現実のものを区別させる為に敢えて『』を多用しています。

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