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14.天体

【現代パラレル「毎日がSpecialday」設定/ユーリ21歳・エステル18歳・夏休み/掌編】

「よし、長袖の上着に長ズボン、スニーカー、格好はOKだな。虫除けスプレーは?」
「持って来ました。今した方が良いです?」
「それは着いてからで良い。んじゃ、行くか」
 お子様達がお待ちかねだ、とワンボックス車を親指の先で示した青年につられて視線を向けたエステルは、ふと笑った。
「ゲストとして加えてもらったんです、お待たせしてしまっては駄目ですね」
 カロルを始めとした園の子供達数人の他、付き添いのウンディーネと手伝いのジュディス、そしてゲストとして招かれたリタとエステル。ユーリは運転手として助っ人に駆り出された。
 今日は園から車で一時間ほど離れた郊外の公園で天体観測をするのだ。夏休みの課題や自由研究の対策で、どうせなら都会の真ん中より星が見える所で、と。
 陽が落ちてからの出発で、抜け道と高速を使い分けていつも夕食をとる時間帯に目的地に到着した。規模の大きい公園ということでそれなりの広さの駐車場も併設されており、取り合えず車を停めた後は車内で夕食となった。
 腹を満たした後は、車外に出て互いにしっかり虫除けスプレーをかけ、荷物を持って公園内へ。事前に調べていたというウンディーネが皆を案内したのは、芝生の広がるとても広い広場。
「ユーリ、出来たよ!」
「どれ? ……さすがカロル先生、ばっちり」
 説明書を見ながらとは言え、きちんと望遠鏡を設置したカロルを褒めると、少年は目を輝かせる。
「ほんと? じゃあもう観ていいかな?」
「いいけど、もう一つが準備出来るまで取り合えず一人五分な」
 お前らも良いな、と他の子供達に念を押せば良い子の返事が返ってくる。もう一基は調整に手間取っていたようだが、見るに見かねたリタが代わるとあっという間に準備は完了したようだ。
「リタ凄いです」
「こ、これくらいどうってこと無いわよ」
 ほら、とエステルを促したリタに、少女は望遠鏡を覗き込んだ。途端、小さな歓声が上がり耳にしていたユーリは口元を持ち上げる。確かに此処は何も無くとも見上げればかなりの数の星が見えるのだ、きっと望遠鏡越しになら更に沢山のそれらが見えるのだろう。
「何か見える?」
「あ、ユーリ。凄いです、見るところ見るところ星が散らばっていて」
 顔を上げたエステルがリタを促せば、彼女も興味はあったのだろう、素直に望遠鏡を覗き込んだ。
「まあ、確かに良く見えるみたい」
「でも、いっぱいありすぎてどれがどれだか」
 苦笑したように手に持つ星座早見表を示した少女に、ユーリはそれを受け取って懐中電灯をかざして眺めた。
「有名所は夏の大三角とかだけど、どうせならもっと分かり易いのにしたら?」
「分かり易いの、です?」
 話が聞こえていたのだろう、ユーリが声を掛ける前に場所を空けたリタは、ガキんちょどもの様子を見てくるわ、とウンディーネとジュディスが見守る年少の子供達が集まる望遠鏡の方へ行ってしまう。周囲に居た少し年上の子供達はと言えば、予習ということなのだろうか各自持つ早見表や方位磁石でどの星を観察するのか話しているが……。
「これは気ぃ使わせてるとか、か?」
「ユーリ?」
「いや、何でも」
 望遠鏡を覗き込んだ青年は、その方向を動かして何かを見つけたのだろう、それを固定してから見守る少女を手招きした。
「今日は晴れて雲が無いから、良く見える」
 何がだろうと思いながら、青年の空けた場所に立って再び望遠鏡を覗き込んだ少女は、そこに見えた天体に歓声を上げた。
「凄いです、綺麗……」
「ちと欠けてるが、良く見えるだろ」
「はい。普通には良く見上げるのに、こうして見ると不思議ですね。月、綺麗です」
「一番近い天体だし、日々変化があるし、観察対象としても面白いだろ」
「はい。残念です、自由研究があれば是非そうするのに」
 高校三年の彼女にあるのは、もっぱら国文や英語と言った受験科目の課題である。
「いいんじゃないの、個人的に観察するのも。とは言え、あんたは受験生なんだし、あんまり違う方面に興味を向けるのはどうかと思うけど」
「仕方がありません。取り合えず今夜たっぷり観察して我慢します」
「それがいいんじゃない。志望校に合格したら、来年の夏はあんたが満足するまで何回でも観察させてやるよ」
 その言葉にエステルは顔を上げ、戸惑いながら問い掛けた。
「来年の夏、です?」
「ああ。ちゃんと受かれば、来年の夏は何も無いだろ」
「何回も?」
「一回でいいなら別だけど?」
 不思議そうに返しながらそれじゃあ足りないのだろうと含んだような青年に、少女は首を振りながら笑顔で言う。
「約束、ですよ?」
 その様子を遠巻きに見ていた他の者達――主にウンディーネやジュディス、カロル、リタはどこまで互いに気付いてやっているのだろう、と溜息を吐いた、と言う話をからかいと共に二人が聞かされるのは翌年の夏のことになる。


*夏休みのとある一コマ。