【本編中/第三部終盤/ヘリオード/ユーリ&カロル&レイヴン/掌編】
「仕方ないけど、雨か曇りか霧ばっかだと少し滅入るね」
部屋に入って換気の為にと窓を開けた少年の言葉に、荷物を下して剣を寝台の横に立てかけていたユーリが顔を上げる。
少年の見上げる窓の外に広がるのは、暗雲立ち込める曇り空だ。
「確かに快晴、ってのは中々無いけど。仕方ないってのは何かあるの?」
「土地柄って言うのかな、カルムクラボからケーブ・モック大森林の間は昔から雨の多い場所なんだ」
カロルの答えに、やはり荷物を置いたレイヴンが付け加えた。
「森林地帯だしねぇ。だから、カプワ・トリムからダングレストへ向かう旅路には防水性の高い外套とかが必須なのよね」
「へぇ。さすがおっさん、年の功? それとも昔とった杵柄?」
「青年、どっちも嫌なんだけど……」
おっさんは天気より青年の言葉に滅入っちゃいそう、と言って不貞寝とばかりに寝台に横になる男に、少年が嘆息する。
「レイヴン、落ち込むのは後にしてよ。ボクと一緒に買出し当番だよ」
「少年まで俺様をいじめる~……。もっと年上を労わってちょうだいよ」
「それって、自分で年取ってるって認めてるんじゃないの」
半眼で返した少年は、先に行ってるからねと部屋を出て行った。
「おっさん、うちの首領は怒ると結構激しいんだから、さっさと行ってくんない?」
「それはおっさんも分かってるけどね。何せ一度この身で体験したし」
「オレは何とか未遂だったけど。……つーか未遂じゃなかったら五体満足じゃなかったかもな」
あれはさすがに肝が冷えた、と肩を竦めた青年が思い返しているのは、数週間前にあった暗い森の中のことだ。その様子を見ていた男は、面白そうに笑って返す。
「あの時はハンマーだったから潰されてたかもね。もし剣だったらみじん切り?」
「……あの勢いは普段の戦闘中より鋭かった、絶対」
「そんだけ気に掛けてるってことでしょ」
「…………それはおっさんにも言えることじゃないの」
言い合って、そして少しの間を置いて溜息を漏らして。
「おっと、そろそろ行かないと今度はおっさんが青年と同じ目にあっちゃいそうだわ」
「いっそそうなってみれば。オレは祈っててやるよ」
小走りで出て行く男に背を向けてひらひらと手を振ったユーリ。
騒々しい走りなのに、実際にはそれほど大きな足音を立てないのは身体に染み付いた習性というやつか。そんなことを思いながら、先ほどまで自らの所属するギルドの若き首領が立っていた場所に歩を進めた青年は、開け放たれた窓から空を見上げる。
「世界が続けば、曇り空ばっかのこの街でも青空が見られる日を悠長に待つことだって出来るわけ、だな」
世界規模の問題を何とかして、少しの間休んで、それからまた旅に出た時にはそれも良いかもしれない。
口角を持ち上げた彼は、今は暗い曇り空の向こうに隠れた青空を思い、一人静かに微笑した。
*たまには「ドキっ☆男だらけ」の話で。(嘘です)


