【本編中/第三部終盤/追憶の迷い路/微ユリエス&パーティメンバー/掌編】
「さて、どうしたもんかな」
不思議な空間。記憶の中にある地が、まるでいびつなパズルのように組み合わされて作られたかのような迷宮。
どうにも不可思議というか不遜な声の挑発に乗るような形でこの迷宮に足を踏み入れた一行は、時折出てくるこの場所特有の魔物を退けつつ確実に奥へと進んでいた。
そしてそれまで居た場所から新たな場所へと移った時、一行は魔物とはまた別の問題に直面することになる。
「これはやっぱり、あれを渡って行けってことなんじゃないかな」
青年の呟きに答える形で、カロルが眼前に立ちはだかる問題――とても広大でしかも流れが急な川――の中に点々と見ることが出来る石や中洲を見て言った。
「これが現実ならバウルの力でひとっとび、なんだけどねぇ」
「残念ながらこの場所まで彼を呼び出すことは不可能よ、おじさま」
レイヴンのぼやきにジュディスが言うと、それまでじっと川を見ていたリタが言う。
「あたしともう一人くらいならレビテーションで向こうまで行けるけど」
「あ、そうですね。以前わたしもリタと空中散歩したことがあります」
ぽん、と手を打ってエステルが言うと、ああとユーリが頷いた。
「リステルか」
「そこ、変な略し方しない!」
「まあいいけど。ならリタはそれで渡って。ついでにラピードも一緒に」
言って足元の相棒ラピードに視線を向けた青年。気にしていない様子ではあるが、明らかに躊躇が見られるその態度。彼の水嫌いを知る一行は態度に出さないものの内心で青年の言葉に納得していた。
「まあ、あたしは良いけど。で、どうするのよ、犬っころ」
「…………ワフ」
「ふふん、んじゃ行くわよ」
彼等の中での意思疎通は出来たらしく、いつになく重い足取りで魔導少女の足元に歩み寄ったラピードに、少女は屈んで抱きつくようにする。
「こら、動くんじゃないの。暴れたら川の中に落ちるんだから」
そして術を発動したのか、宙に浮いた一人と一匹は先んじて川向こうに到着した。
「それじゃあ私達も行きましょうか」
「う……、だ、大丈夫かなぁ」
「足場になりそうな所は個々そんなに離れてないし、慎重に行けば少年の歩幅でも問題ないっしょ」
ひょい、と身軽に足を踏み出したジュディス。少し躊躇うカロルに声を掛けてレイヴンもひょいひょいと続く。結局少年も意を決して彼らに続いていき、ユーリはその後ろから気をつけろよと言いながら足を踏み出す。エステルは少しだけ息を呑んだ後、青年を追って最初の足場に片足を掛けた。
レイヴンがカロルに言ったように、川に点々と存在する足場――石だったり小さな中州だったり――はそれほど離れていない。まるで橋の代わりにこれを使って渡れ、と意図的に用意されたかのようだ。恐らくはその通りなのだろう、とこの迷宮に導いた愉快犯的な声を思い出しながら青年の後に続いていたエステルは、はた、と足を止める。
それまで少し足を伸ばせば届いていた足場が、急に途切れたのだ。川向こうまであと一息だが、しかし簡単に届く距離では無い。
「エステル、思い切ってジャンプするしかないぞ」
先に到着した青年の言葉に顔を上げた少女は、再び足元を見てごくりと唾液を嚥下する。成功すれば到着、けれど失敗すれば……下手をすれば落ちるだけでは済まず、その急流に流されることだろう。
「受け止めてやるから、ほら」
「ほんとうです?」
「ほんとに。ほれ、ジャンプ!」
促す声に引き寄せられるように、少女は軽く両手を広げた青年めがけて地を蹴った。
*追憶の迷い路に川なんてありませんが、まあそこは捏造で。


