【ED後/「waltz.」設定・未来/ユリエス&カロル/掌編】
「おはよう、エステル」
「おはようございます、カロル。良く眠れました?」
テーブルに皿を置きながら声を返したエステルに、カロルは働きながら答えた。
「うん。お陰様で」
「おはよう、カロル。顔は洗ってきたか?」
「もう、子供じゃないんだよ、仕度してから来たよ。おはようユーリ」
むすりとしながら返事をすると、青年は持っていた藤籠をテーブルに置いてからくしゃりと少年の髪を掻き混ぜた。
「わっ、もう!」
「ならすぐ朝メシだ」
キッチンから出て来たユーリはほれ、と席を示した。それに従って椅子に掛けると、テーブルの上に置かれた籠の中の焼き立てのパンから香ばしい匂いが漂ってきて、少年は思わず唾を飲み込む。
「これ、ユーリのお手製?」
「ああ、まあな。折角パンが焼けるかまどがあるのに使わない手は無いだろ」
言いながらユーリと、続いてエステルもカロルの正面に並んで腰を下ろした。
「んじゃ、いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす!」
それぞれに籠へ手を伸ばしてパンを取ると、カロルはそれを二つに割った。ふわりと立ち上るより一層濃い香りに堪らずかぶり付くと、想像以上の味が口いっぱいに広がる。
「これ、ハーブ……が入ってる?」
「いや。ルルリエの花びらを乾燥させて細かくして生地に練りこんだやつ」
「へぇ、花びらかぁ」
「びっくりですよね。その他にも、ジャムですとか、意外な所でお花の塩漬けとか、ユーリが次々作るのでその度に驚いちゃうんです」
微笑しながら感心するカロルに言ったエステルも、一口大にちぎったパンを口に入れるとその味に口元を綻ばせた。
「だって勿体無いだろ、満開になる度に地面が見えなくなるくらい降り積もるんだし」
「確かにそうだけど。……なんか名産品になりそうだよね」
「そりゃ良いな。村長に売り込みに行くか」
くつりと笑い、パンを皿に置いたユーリはふとエステルを見て何かに気付いたかのように呼びかける。
「エステル」
「はい? っ、ひゃ!?」
「な、ユ、ユーリっ!?」
ペロリ、と顔を寄せてエステルの唇の端を舐めた青年に、された本人も、目撃した少年も驚いて声を上げた。
「なに?」
「な、何って、な、何するんです、カロルも居るのに……!」
「パンの欠片が付いてたからな」
しれっと答えて再び皿の上のパンを取り上げ、ちぎったそれを口の中に入れた青年に、エステルは頬を赤く染めたまま抗議を続ける。
「そ、それなら、教えてくれたら自分で取りました」
「それはオレが面白くないから却下」
「面白いとかそういう問題じゃないです!」
「夫から妻へのスキンシップのつもりだったんだけど」
「そ、そういうことは、人の居ない所でしてくださいっ」
「へえ……それじゃあ今夜遠慮な……」
「ユーリ!」
慌てて両手で青年の口を塞ぐ真っ赤な顔のエステルと、されるがままになりながら目元を面白そうに眇めたユーリと、そんな二人を目の前にした少年は朝から疲れ果てたような吐息を漏らしながらこう呟いた。
「……そういうことはお願いだからボクの居ない時に話し合ってよ」
自分の他に誰も突っ込める人間が居ないこの状況に、今度から一人でお邪魔するのは極力遠慮しようと密かに決意するカロルだった。
*「waltz.」シリーズの結婚後で新婚さんのお宅にお邪魔するカロル少年の図。


