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22.NO

【騎士姫パラレル/短編】

「あなたには仕える大事な人が居ます。その人が偶発的事故によって崖から落ちようとしています。あなたが手を貸せば助かりますが、その時はあなたが代わりに崖から落ちてしまいます。さあ、あなたは主を助けますか? それとも助けませんか?」
 何て言う悪趣味な。
 それを聞いた時に恐らく殆ど誰もが内心で漏らした感想だった。
 帝都で起こっているであろう「上」のごたごたが片付くまで、ということで出て来た姫とその騎士は、今は少し良い所の令嬢と偶然出会って護衛となった青年という設定で旅を続けている。
 その最中に出会った少し気弱なカロルという少年、そして天才と名高いリタという少女、実は帝都のヨーデルからの命で使わされた騎士団隊長首席なのにその顔を隠している胡散臭い雰囲気のレイヴンという男、古き種族と共に旅をしていた創世の一族と呼ばれるクリティア族のジュディスという女性、そして最初から共に居た優秀な軍用犬ラピード。
 いつしか大所帯となっていた一行は、今はジュディスの友人である古き種族のバウルが運ぶ船で世界に起きている異変を調査して回っていた。
 少年が読み上げた悪趣味な問いは、騎士団に入る際に必ず問われるものだ。休養として街に散って戻ってきたカロルが、偶然手助けをした老人に駄賃代わりとして書物を幾つか譲り受けた――写本ではない書物は古書であっても相当の痛みが無い限り相応の値が付くのだ。必要無いので売っても構わないと渡されたらしい――のだが、その中の一冊が騎士道教訓について書かれた見習い騎士の為の教本のようなものだったのだ。
「あほらし」
 そう一言で斬って捨てたのは、理論的に物を考えることが常である魔導士のリタだった。
「しょうがないでしょ、本当に今言ったことが書かれてるんだから」
 ねぇ、ジュディス。と少年の持つ本を覗き込んだ女性に尋ねた少年に、紙面に視線をはしらせた後で頷くジュディス。
「確かにそう書かれているわね」
「意地悪な質問よねぇ。これで見習い騎士の教本って言うんだから」
 いつもの調子で言って肩を竦めたレイヴンだが、しかしその正体を知る少女や青年からすれば珍しく本心を出した意見だ。
「エステルとユーリはどう思う?」
「え? ええと、そう、ですね……」
「どっちでも無い」
「え?」
 端的に答えた青年に、問うたカロルは不思議そうに声を上げた。
「仕えるべき主を助け、そして崖から落ちた後にどうあっても這い上がる。忠誠を誓った主ならこうだ。だが、そうでないなら仕えるべき者による。己が命を賭けてまで助けるべきか、否か。――だからどっちでも無い」
 淡々と答えたユーリに、少年は勿論、最初に興味ないからと一言で終わらせたリタも、微笑を浮かべていたジュディスも、僅かに瞳を瞬いて驚いた。少し粗野な雰囲気のある青年の、言うなれば「真面目」な意見は彼らにとっては驚くべきものだったから。
「ほら、それ売りに行くんじゃなかったの」
「あ、うん。ついでに買出しもしてくるね」
 行こう、と買出しの担当となっていたリタとジュディスとレイヴンを促したカロル。少年の言葉に彼に着いて部屋を出たリタとジュディスを追った男は、扉に手をかけながらユーリを振り向いた。
「演技の上手い青年にしては珍しくお仕事モードだったじゃない」
「……ちと口が滑ったか」
「いいんじゃない。久々に模範解答以外の『正解』が聞けておっさん面白かったわよ」
 肩を竦めた青年ににやりと笑いながら部屋を出て行った男が扉を閉めると、それまで口を閉ざしていた少女が問い掛けた。
「模範解答以外の『正解』です?」
「騎士ならば如何なる時も主の剣であり盾であれ。それに従えば先ほどの問いの模範解答は『YES』、つまり助けるです。助けないは『NO』では無く論外ですね。私の解答は模範解答ではありませんが、理由付きで正解ということです」
「ユーリらしくて良いと思います」
「オレ、らしい、ね」
「……ユーリ?」
「いいえ、何でも。お気になさらずに、エステリーゼ様」
「もう、それは旅の間は無しだと約束したじゃないです?」
「人の目がある時はと旅の始めに申し上げたと思いますが」
「……ユーリは意地悪です」
 拗ねたように漏らした自らの主に僅かに苦笑してみせた青年は、ふと思った。先ほどの『模範解答以外の「正解」』を実際に見習い時代の試験官との面接で答えた時のことを。あの時はまだ自分が誰かに心から仕えるなんて無いと思っていて、けれど模範的な解答をするのも癪に障ってどちらとも取れる答えを出した。
 今なら?
 まずは自らの解答を実践するだろう。それが一番の理想だ。しかし、どうしても、二者択一のどちらかを選ばなければならないとすれば。
「Noだな」
「はい?」
「……再確認した所です。私が、お守り申し上げます、殿下」
「はい。ですが、わたしも何も出来ないわけじゃないです。ユーリの役目ではありますが、だからと言って自分から傷つきすぎないでくださいね」
 その言葉に跪き、深く頭を垂れてただ是と答えた青年は思うのだ。こうしてただの『模範的な解答』以外の『正解』を選ばせてくれる主だからこそ、二つに一つの正解を取れと言われたなら自らが「NO」とした「主を助けて自らは崖から落ちる」を選ぶだろうと思うようになったのだと。


*捏造騎士×姫設定の「21.YES」と「10.生まれる前」の間の旅のお話。肝心の部分をちょっとうまく言えなかった感が。